実は死んでいて
 星谷梨羅が死んでいることは彼女以外の誰も知らない、梨羅は友達と一緒に山に遊びに行った時に崖から落ちて死んだのだ。
 しかし非常に幸運なことと言うべきか死んだその場に彼女と外見も年齢もひいては血液型さえも同じ少女の遺体があってそこに移れたのだが。
 移ってからだ、梨羅は気付いて言った。
「あれっ、何か私って」
「入れ替わってる?」
 これまで梨羅の身体も起き上がって言ってきた。
「どうも」
「そうよね」
「声まで同じで」
「何かね」
「いや、私が二人いるみたいな」
「そんなのよね」
 二人で言い合う、しかもだった。
 これまで梨羅の身体にいた少女が自分の名前を言った、そして梨羅もそうした。相手の娘は崖のところを歩いていてつまづいて頭を打って死んでいた。そこに崖から落ちた梨羅が来たのだ。
 二人はこのことがわかってだ、お互いに言い合った。
「これからどうする?」
「どうするってね」
「とりあえずお互いの身体に戻る?」
「そうする?」
 こう話してとりあえず幽体離脱しようとしてみると何と自分が思うままに出来てそれで自分達の本来の身体に戻ろうとしたが戻れなかった、だが相手の身体には自由に入ることが出来た。それで梨羅も相手の娘も話した。
「何、これ」
「あんたもそう思うわよね」
「それはね、何で相手の身体に戻れてね」
「自分の身体には戻れないのか」
「外見も背も同じだけれど」
「何で自分も身体には戻れないのよ」
 二人共このことがわからなかった、だがどうしても自分の本来の身体には戻れず困っていたが二人は戻れないことはどうしようもないと思ってだ。
 梨羅からだ、相手の娘に言った。
「顔も身体も背丈とかもかわらないし」
「お互いに確認した血液型も同じだしね」
「スリーサイズも大体同じときた」
「違うのは名前と今着ている服だけって」
「じゃあ服替えたらね」
「そのまま何もなかったってことで通じるわね」
「それじゃあもう仕方ないわね」
 身体が違っていてもそっくり同士なら同じだ、それならと思ってだった。
 二人は服を取り換えてそうしてだった、お互いの身体だけ違っているが自分達だけが知っていることとしてことを済ませた、だが服をそれこそ靴や靴下や下着まで交換してからだった。
 梨羅からだ、相手の娘に話した。
「ねえ、これも縁だし」
「どうしたの?」
「あんたと私住んでる県は同じだし」
「ええ、市は違ってもね」
「じゃあ時々会って」
「仲良くする?」
「そうする?まさかここまでそっくりさんがいるとは思わなかったけれど」
 梨羅はそれでもと言うのだった。
「これも縁だしね」
「そうね、お互いの元の身体を使ってくれる相手だし」
「仲良くしましょう」
「友達になってね」
 こうしてだった、梨羅はその少女と友達になった、そのうえでお互いの友人のところに戻った。梨羅も相手の娘も自分が実は身体が違うとばれるのではと危惧したが友人達にも両親にも他の親しい者達にも気付かれなかった。だが二人共幽体離脱と憑依は自分達の元の身体以外には自由に出来る様になって。
 夜になると身体から魂を出して毎晩話したりする様になった、二人は昼は会うことはないがそれでもだった。
 毎晩親しく話していった、それである晩相手の娘が梨羅に言ってきた。
「冗談抜きで私達血縁関係じゃないの?」
「それね」
 魂だけの梨羅も相手の言葉に頷いて返した。
「本当に名前以外全く一緒だからね」
「これが頭の出来とか好みもだから」
「それじゃあね」
「絶対に血縁関係あるわよね」
「ええ、生き別れの姉妹とか」
「それ絶対にあるわね」
「そうであってもおかしくないわよ、若しくは」
 梨羅はここでこうも言った、二人共夜空の上にぷかぷかと浮かんで向かい合って座って話をしている。服装はそれぞれが寝ている時に着ているパジャマ姿で身体が透けている。
「お父さんかお祖父ちゃんの愛人とか」
「あっ、実は私のお祖父ちゃんって」
 相手の娘が梨羅の言葉に気付いて言った。
「凄い浮気者で有名だったのよ。もう死んだけれど」
「うちのお母さんの本当のお父さん、私の本当のお祖父ちゃんもだったわ」
 梨羅もそうだと答えた。
「お母さんがそう言ってるわ」
「うちのお母さんもよ。実はうちのお母さんってお祖母ちゃんが結婚する前の子供でお母さんを産んでからお祖父ちゃんと結婚したんだけれど。お祖父ちゃんが凄くいい人で連れ子がいてもって言って結婚してお母さんも大事に育ててくれて私も可愛がってくれてるけれど」
「ちょっと待って、それって」
 ここで梨羅ははっとなった、それで相手の娘に言った。
「若しかして」
「若しかして?」
「あんたのお母さん実は」
「あんたのお祖父ちゃんが浮気して出来たとか?」
「そうじゃないの?」
 こう言うのだった。
「何かこれね」
「ううん、有り得るわね」
 相手の娘も頷いた、それで二人でお互いの祖父のことを家族に聞いてみるとだった。
 梨羅の母方の祖父と相手の娘の本当の母方の祖父は同じ人だった、つまり梨羅の母と相手の娘の母は腹違いの姉妹だった。だが母親同士はお互いの存在を知らなかった。
 このことがわかってだ、二人は幽体離脱をした夜に二人で話した。
「私達従姉妹だったのね」
「歳が同じってのも凄いわね」
「流石に生年月日は一緒じゃないけれど」
「そっくりなのも当然よね」
「お祖父ちゃんが一緒でお母さんが姉妹なら」
「そうよね」
「しかしね」
 梨羅は相手にこうも言った。
「私達同じ県に住んでるから」
「それじゃあよね」
「お昼起きてる時とかにね」
「ばったり会うかもね」
「その時どうする?」
 相手の娘に真剣な顔で問うた。
「というかどうしようかしら」
「普通でいいでしょ」
 これが相手の娘の返事だった。
「普通にやあって挨拶して」
「それでなのね」
「お互い仲良くやっていったらいいでしょ」
「今みたいになのね」
「それでいいでしょ、ただお母さん達は知らないから」
 お互いが姉妹であることをだ。
「そうした相手がいることは知ってるみたいだけれど」
「それでもよね」
「だからね」
「私達だけでっていうのね」
「会ったら仲良くしよう、まあ身体は入れ替わったけれど」
「別に何もないしね」
「じゃあね」
 それならと言うのだった。
「それじゃあね」
「若し会ったら」
 何処かでとだ、梨羅も答えた。
「その時はね」
「仲良く遊ぶってことね」
「それか大人になったら」
「私達で会って」
「あらためて仲よくしよう」
「じゃあ一緒の高校とか大学行くとか」
 今度は相手の娘が提案してきた。
「そうする?」
「それいいわね」
「じゃあお互い勉強頑張ろう」
「それは今もしてるけれどね」
「ずっとね」
「それでお昼でもね」
「仲良くしよう」
 二人でこう言い合ってだった、そのうえで。
 梨羅と相手の娘は中学の間は夜だけ幽体で会っていた、だが高校は合格の関係であって梨羅は偏差値は同じ位でも私立相手の娘は公立の学校に通うことになったが何と街でお互いの母親同士がばったりと出会って。
 お互いの家族同士で姉妹そして親戚同士ということがわかって二人の付き合いは昼でもはじまった。それで梨羅は相手の娘に言った。
「思わぬ展開だけれど」
「それでもね」
「あらためて宜しくね」
「ええ、こちらこそね」 
 二人で笑顔で挨拶をした、そうして二人は従姉妹同士として付き合う様になったがそこに至った経緯の真実は二人だけが知っていることだった。二人の身体のことも含めて。


実は死んでいて   完


                   2018・9・27

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