イソギンチャクの中で
 海空水羽は水の妖精でその身体は全て水で出来ている、そしていつも水の中にいて泳いだり遊んだりして暮らしている。
 この日水羽は珊瑚礁にいた、そこでだった。
 彼女はイソギンチャクの中を出入りするクマノニに言われた。
「いや、イソギンチャクさんがいてくれるから」
「だからなのね」
「うん、僕達は安全なんだ」
「いざっていう時はよね」
「イソギンチャクさんの中に入れば」
 それでというのだ。
「難を逃れられるから」
「それでよね」
「僕達は安心して暮らせるんだ」
「そうなね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「一つ思うことは」
 それはというとだ、水羽はクマノニに尋ねた。海の中で一緒に泳ぎながら。
「貴方達は大丈夫なの?」
「大丈夫っていうと?」
「だからイソギンチャクさんの中にいても」
「僕達は食べられないから」
「そうなの」
「イソギンチャクさん達にね」
 他のお魚と違ってというのだ。
「それで刺胞にもね」
「刺されないのね」
「むしろ中にいたら」
 イソギンチャクのその中にだ。
「凄く気持ちいいんだよ、温かくてね」
「温かいの」
「そう、イソギンチャクさんの中はね」
「そうだったなんて」
「水羽ちゃんは中に入ったことがないんだ」
「ないわ、というか中に入ろうと思ったことすらね」
「ないんだ」
「一度もね。けれど気持ちいいなら」 
 それならとだ、水羽はクマノミに考える顔になって述べた。
「私もね」
「入ってみるんだ」
「そうしてみようかしら」
「じゃあそうしたらいいよ」
 クマノミは水羽毛にすぐに答えた。
「水羽ちゃんがそうしたいと思ったらね」
「それじゃあね」
 水羽も頷いてだ、そうしてだった。
 実際にイソギンチャクのところに行った、そのうえで彼等に言った。
「ねえ、イソギンチャクさんの中に入っていい?」
「クマノミさんみたいにだね」
「そうしていいかっていうんだね」
「これから」
「ええ、いいかしら」
 こう聞くのだった。
「私もそうして」
「いいよ」
 イソギンチャクはゆらゆらと海の中で動きつつ水羽に答えた。
「水羽ちゃんならね」
「悪いことしないからね」
「海の妖精ならね」
「何も悪いことしないし」
「それじゃあ」
 水羽はイソギンチャク達の言葉に頷いてだ、そうしてだった。
 イソギンチャク達の方に進みその中に入った、するとクマノミ達の言った通りにだ。
 とても温かった、イソギンチャク達の守ってあげようという温もりを感じた。それでその温もりの中で彼等に言った。
「クマノミさんの言う通りよ」
「温かいんだね」
「僕達の中はそうだっていうんだね」
「温かいって」
「それに気持ちいいわ」
 にこりと笑っての言葉だった。
「本当にクマノミさんの言う通りよ」
「それは何よりだよ」
「じゃあこれからも気が向いたら中に入ってね」
「僕達の中にね」
「そうしてね」
「ええ、そうさせてもらうわ」
 水羽はイソギンチャク達に笑顔で答えた。
「これからも」
「じゃあまたね」
「また中に来てね」
「僕達のこの中にね」
 イソギンチャク達は自分達の中から出た水羽に優しい声をかけて送った、水羽はまた海の中で泳ぎはじめた。
 そうしてだ、今度は珊瑚と珊瑚の間を泳ぎながら今も一緒にいるクマノミに対してにこりと笑って話した。
「この前イソギンチャクさん達の中に入ったけれど」
「どうだったかな」
「クマノミさんの言う通りだったわ」
 まさにというのだ。
「本当にね」
「温かかったね」
「そして気持ちよかったわ」
「そうだね、だからね」
「クマノミさん達も」
「安心出来るんだ」
「そうよね、けれどね」
 ここでこうも言った水羽だった。
「どうしてクマノミさん達だけなのかしら」
「イソギンチャクさん達がその中に入れてくれるか」
「他のお魚は駄目なのに」
「それは友達だからだよ」
「だからなの」
「そう、僕達がね」
「イソギンチャクさん達のお友達だから」
「それでなんだ」
 それ故にというのだ。
「イソギンチャクさん達は中に入れてくれてね」
「守ってくれるの」
「そうなんだ」
「そうだったの」
「そして水羽ちゃんだよ」
 他ならぬ彼女もというのだ。
「水羽ちゃんは水の妖精で海や川にいる皆のお友達だね」
「だからなのね」
「イソギンチャクさん達も受け入れてくれるんだ」
「そうなのね」
「そうだよ、それで今日は何をするのかな」
「このまま泳いでそうして」
 水羽はクマノミの問いに笑顔で答えた。
「後は水面に出て浮かびながら海月さん達みたいにお昼寝するわ」
「そうなんだ、じゃあ」
「今は一緒に泳ぎましょう」
 水羽はクマノミに笑顔で言った、そうして今は彼と一緒に楽しく泳いだ。水羽の泳ぎはまるで空を飛ぶ様に軽やかだった。


イソギンチャクの中で   完


                    2018・10・17

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