ハヤシライスよ永遠に
林来子はハヤシライスの妖精である、その為ハヤシライスについては絶対の愛情を持っていて布教に務めている。
その彼女がある商店街の洋食屋の親父彼女にとって馴染みの人物である彼に対して不満そうに言っていた。
「私いつも思うんですが」
「カレーと比べるとな」
「ハヤシライスって人気ないですよね」
「人気はあるんだよ」
親父はこれ自体は否定しない、言いつつ店のカウンターに座っている来子にそのハヤシライスを出す。
「うちの店でも人気あるよ」
「それはそうですよね」
「ただね」
「カレーと比べると、ですね」
「カレーは圧倒的だからね」
それ故にというのだ。
「やっぱりね」
「負けてますか」
「来子ちゃんには悪いけれどね」
「悪くないです」
来子はスプーンを手に取りつつ答えた。
「別に。ただ」
「カレーライスが強過ぎるんだよね」
「向こうあれですよね」
そのカレーのことをだ、来子はさらに話した。
「チキンカレー、ポークカレー、シーフードカレー、野菜カレーってあって」
「カツカレー、ハンバーグカレー、ソーセージカレーもあるね」
「あと海老フライカレーも」
このカレーもあるというのだ。
「最近スープカレーもあって」
「専門店も多いしね」
「カレー丼もありますよ」
来子は和食も出した。
「ハヤシ丼なんてないですし」
「お肉もね」
「はい、基本牛肉です」
ハヤシライスの中にあるスライスされた牛肉を食べつつの言葉だ、その牛肉を。
「鶏肉や豚肉は」
「あまり使わないね」
「カレーはそういうのも使えて」
「その分も強いね」
「本当にずるい位強いですよね」
ハヤシライスの妖精である来子もこのことを認めるしかなかった。
「そのカレーとどう対していくか」
「来子ちゃんの頭の痛いところだね」
「そうなんです、私が生まれてから」
即ちハヤシライスが世に出てからだ。
「明治の頃から考えてますけれど」
「洋食屋には大抵あるけれどね」
メニューとして存在はしているのだ。
「それでさっきも言ったけれど」
「人気もあるんですね」
「そこそこね。オムライス位にあるかな」
「結構ではあるんですよね」
「けれどやっぱりね」
「カレーライスは強過ぎますね」
「うちの店でも一番人気だよ」
親父はこの現実も話した。
「もうダントツと言っていいよ」
「そこまで人気ですよね」
「うん、ハンバーグやナポリタンよりもね」
洋食の他の定番料理よりもというのだ。
「売れているよ」
「ううん、日本の洋食最強ですね」
「いや、洋食は日本だけの料理だから」
実はそうなのだ、フランスやイタリアには洋食といったものはない。例えばナポリタンはナポリどころかイタリアにはないスパゲティだ。
「だからね」
「そこは違いますよね」
「全く違うから」
このことは強く言う親父だった、美味そうにハヤシライスを食べる来子に。
「わかっておいてね」
「わかりました、とにかくですね」
「うん、ハヤシライス自体は売れてるけれど」
「カレーライスはですね」
「最強と言っていいからね」
洋食という日本の料理のジャンルの一つの中でだ。
「もうここはね」
「ここは?」
「張り合うのを止めて」
そしてというのだ。
「ハヤシライスはハヤシライスでね」
「やっていくべきですか」
「そう思うけれどどうかな」
「そうですか。よく似てるって言われますし」
来子にとっては非常に不本意なことにだ。
「何とかしたいですが」
「だからそこでだよ」
「私は私ですか」
「ハヤシライスはハヤシライスでね」
「やっていくべきですか」
「それが一番いいんじゃないかな」
「そうですか」
「ああ、それでいくべきだよ」
実際にとだ、親父は来子にアドバイスをした。来子も彼のアドバイスをハヤシライスを食べつつ答えた。
そしてだ、後日だった。
来子は大阪城の方に出店を出した、そのお店は。
「あれっ、ハヤシライス?」
「ハヤシライスの出店なの」
「カレーじゃないんだな」
「ハヤシライスなのね」
「はい、うちはハヤシライスです」
来子は店の前に来た者達に笑顔で答えた。
「よかったら食べて下さい」
「カレーかって思ったらな」
「そこ違いますから」
カレーかと言われると無意識のうちに怒ってしまうそうした顔で答えた。
「けれど美味しいですから」
「そういえはハヤシライスも美味いな」
「そうよね」
「こっちはこっちで」
「悪くないわね」
「美味しいですよ」
真剣な顔でだ、来子は彼等に答えた。
「特に私が作ったものは」
「そうか、じゃあな」
「ものは試しだ、食べてみるか」
「まずは食べてからだし」
「実際ハヤシライスも美味しいし」
皆来子の言葉に頷いてそうしてだった。
それぞれお金を払って彼女が煎れたプラスチックの皿の上のハヤシライス白い御飯の上に多くの牛肉とマッシュルーム、玉葱が入っていてトマトもよく効いていてグリーンピースも添えられたそれを食べた。そして誰もがこう言った。
「美味いな」
「そうよね」
「やっぱりハヤシライスもいいな」
「悪くないわ」
「そうです、ハヤシライスは美味しいんです」
また言う来子だった。
「ですからどんどん食べて下さい」
「そうだな、じゃあな」
「これからも食べていきましょう」
「ハヤシライスもね」
「そうしていきましょう」
客達も答えてだ、そしてだった。
ハヤシライスはこの時だけでなくそれからも売れた、来子は普通の人間が充分に生計を立てられる位にハヤシライスを売ることが出来た、それでだった。
洋食屋で親父にこの日もハヤシライスを食べつつ言った。
「やっぱりハヤシライスは美味しいです」
「大阪城の方で人気らしいな」
「はい、出店を出してますが」
「いいことだな、やっぱりな」
「ハヤシライスはですね」
「人気あるよ、だからな」
それ故にとだ、親父は来子にこう言った。
「ハヤシライスはハヤシライス」
「そう考えてですね」
「やっていくといいさ、あんたはあんたなんだからな」
「わかりました、それじゃあこれからも」
「頑張っていけよ」
「そうさせてもらいます」
来子はハヤシライスを食べつつ笑顔で答えた、そうしてそのうえでまた大阪城の方でハヤシライスを売り好評を得て笑顔になるのだった。
ハヤシライスよ永遠に 完
2018・10・17
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー