どういう苦手か
ザン=アディは京都で表では薬屋その実は情報屋をやっている、その彼の好物は日本食であるがすっぽんは苦手だ。
その話を知っている京都府警のある刑事が彼に言ってきた。
「すっぽんは苦手か」
「はい」
その通りだとだ、アディは自分の店に来て聞いてきた刑事に答えた。
「どうしても」
「そうなんだな」
「あれだけは駄目ですね」
「そういえばあんたの国にはいなかったな」
「すっぽんはいないですね」
実際にとだ、アディは刑事に答えた。
「本当に」
「それでか」
「はい、日本はいい国ですが」
それでもとだ、アディは刑事にまた答えた。
「それでもです」
「すっぽんだけはなんだな」
「そうなんです」
「そうか、わかった」
刑事はアディの言葉に頷いた、そしてだった。
彼を京都のある店に連れて行くことにした、刑事は彼にフェアにいこうと思い彼に事前にこう言った。
「まるの店に行かないか?」
「すっぽんですか」
「ああ、よかったらな」
「いいですね、行きましょう」
すっぽんと聞いてだ、アディは刑事に笑顔で答えた。
「是非」
「えっ、いいのか」
「いいですよ。ただ」
ここでアディは刑事に心配そうな顔で尋ねた。
「京都ですっぽんのお店は」
「まるはな」
関西ではすっぽんをまると呼ぶ、甲羅の形が丸いからだ。だから月とすっぽんという言葉もあるのだ。
「高いな」
「一見さんお断わりだったり」
「安心しろ、それ位の金はあるさ」
刑事はアディに笑って答えた。
「だからな」
「こうしたことはですか」
「気にしないでな」
そうしてというのだ。
「食いに行こうな」
「では割り勘で」
「いやいや、気遣いは無用だからな」
刑事は実際にここは自分が出すと言ってだった、彼を店に連れて行った。そうして彼の食べ方を見るが。
彼はすっぽん鍋をゼラチンも足も全て食べてそれから最後の雑炊まで食べた。そのうえで刑事に店を出る時に言った。
「いやあ、久し振りに食べましたよすっぽん」
「美味かったか」
「はい」
その通りという返事だった。
「本当に」
「それは何よりだな、ただな」
「ただ?」
「あんたすっぽん苦手だよな」
刑事はアディに怪訝な顔で尋ねた。
「そうだよな」
「はい、それはです」
「それは?」
「あれです、すっぽんって噛みますよね」
「あんた噛まれたことがあるのか」
「日本に来てすぐに川で釣りをしたんです」
そうした時があったというのだ。
「その時すっぽんを釣りまして」
「その時にか」
「噛まれて。随分とです」
「しつこかっただろ」
「中々離さなくて困りました」
「すっぽんは一度噛んだら離さないんだよ」
その通りだとだ、刑事はアディに答えた。
「それこそ雷が鳴らないとな」
「そう言われてますね」
「まあ実際に水に漬けたら離すけれどな」
「実際に近くにいた人に教えてもらって」
「それで離させたか」
「そうしましたけれど大変な思いをしました」
すっぽんに噛まれてというのだ。
「あの時のことは忘れられないです」
「だからすっぽんは苦手か」
「そうなんですよ」
生きものとしてのすっぽんはというのだ。
「本当に」
「それで何で食べるのは好きなんだ?」
このことがわからずだ、刑事はアディに尋ねた。
「そっちは」
「その前にものは試しで食べてみたんです」
「日本に来てすぐにか」
「日本で食べるものの一つとして」
それでというのだ。
「食べたんですが美味しくて」
「それでか」
「食べる分には好きです」
「成程な」
「はい、ですが」
それでもとも言うアディだった。
「食べる以外では苦手です」
「成程な」
「いや、それにしても今日は」
「いい気持ちになっただろ」
「とても」
満面の笑顔でだ、アディは彼に刑事に答えた。
「満喫しました、じゃあ明日は」
「明日は何を食うかか」
「カツ丼にしようかと」
その様にというのだ。
「考えています」
「そうなのか」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「それもごっつい盛りを」
「それどんなのだ」
「御飯丼四杯、豚カツ三枚です」
「凄いな」
「これを食べようと思っています」
「あんただったら食えるな」
刑事はアディの二メートルを超える長身を見て言った。
「そうだな」
「はい、いけます」
「それを食うか」
「いや、美味しい日本食ですよねカツ丼は」
「そういえばカツ丼も日本食だな」
「そうです、我々から見れば」
外国人から見ればというのだ。
「素敵な日本食の一つですよ」
「明日はそれを食うか」
「そうしようかと思っています」
今日はすっぽんを食べてそしてというのだ。
「これから」
「成程な、じゃあそれも食ってな」
「楽しみますよ」
「何か凄まじく日本に親しんでいるな」
「自覚あります、すっぽんも食べて」
噛まれることは苦手にしてもというのだ。
「他のものも食べてますからね」
「よくそこまで日本に馴染んだな」
「自分ではまだまだと思ってますけれど」
「いやいやかなりだよ、じゃあ今度は情報が欲しい時にな」
「その時にですね」
「店に来るな」
「楽しみに待ってますね」
アディは刑事に笑顔で答えた。
「またいらして下さい」98
「それじゃあな」
二人は笑顔で別れた、その時は笑顔で別れて後日刑事がアディの店に行くと彼に求めている情報以外に。
彼からだ、笑顔でこう言われた。
「すっぽんの美味しいお店の話聞きました」
「そうか、何処の店だ?」
「大阪です」
店の場所は彼等がいる京都ではなかった。
「船場の方に」
「そっちか」
「はい、ちょっと行ってみようかと」
その様にというのだ。
「思ってます」
「そうか、じゃあな」
「後で食後の感想お話します」
「楽しみにしてるぜ」
刑事はアディに笑顔で応えた、そうして今は彼の店を後にした。後日彼から聞いた感想は最高のものだった。
どういう苦手か 完
2018・10・17
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