山奥の家
 海月真咲は学生だ、だが彼女がそう言っても彼女のことを知っている者は学校ではかなり少なかったりする。
 それでだ、友人の一人が真咲本人に尋ねた。
「真咲って何処に住んでるの?」
「山の中だよ」
 真咲はその友達に笑顔で答えた。
「今はお兄ちゃん、妹と一緒にね」
「山の中で暮らしてるの」
「三人でね」
 それでというのだ。
「お家に住んでるの」
「お家あるのね」
「あるよ」
 真咲は友人にまた笑顔で答えた。
「ちゃんとね」
「それでなのね」
「そう、幸せに暮らしてるよ」
「ううん、ただね」
「ただ?」
「いや、私真咲のお家に行ったことないから」
 今まで何処に住んでいたのかも知れなかった。
「だからね」
「それでなの」
「うん、真咲がよかったら」
 それならというのだ。
「あんたのお家に行っていい?」
「うん、いいよ」
 真咲は友達の申し出に笑顔で答えた。
「じゃあ今日にでも来る?」
「今日でいいの」
「いいよ、じゃあお家にね」
「案内してくれるの」
「そうさせてもらうね」
 真咲の方からの言葉だった。
「それじゃあね」
「ええ。それじゃあ」
 こうして話は決まった、その友人は真咲に案内してもらって彼女の家にお邪魔することになった。だが。
 学校を出てだ、真咲は友人にすぐにこう言った。
「学校の裏山に行くから」
「そこになのね」
「そう、私の家があるから」
 だからだというのだ。
「そこに行こうね」
「真咲のお家って裏山にあったのね」
「学校のね」
「それも知らなかったわ」
「いい場所だよ。自然も豊かで」
「そうなの」
「釣りも出来るし果物も多いし」
 それでというのだ。
「スーパーで買うこともあるけれど」
「山で調達することもなのね」
「私多いし」
 それでというのだ。
「そうしたことも困らないからね」
「いいのね」
「うん、じゃあ裏山に行こうね」
 こう言ってだ、真咲は友達をまず裏山の中に案内した、そこから山をどんどん登っていくがその山道は。
 結構険しくてだ、友人はこう先に進んで案内してくれる真咲に対して左右の木々や川を見ながら尋ねた。
「いつもこの道通ってるの」
「そうだよ」
 真咲は笑顔で答えた。
「学校に行く時もね」
「そうしてるのね」
「そうだよ。いい道だよね」
「結構険しいわよ」
 舗装されていない、本物の山道だ。だから友達は道の小石に躓きかけたりして歩くのにやや苦労している。
「こんな道をなの」
「毎日歩いてるよ」
「凄いわね、何かね」
「何か?」
「真咲って山ガールなんだってね」
「思ったのね」
「あと釣りもするのよね」
 このことも聞くのだった。
「そうよね」
「そうだよ」
「だったら釣りガールでもあるのね」
「そうなるね」
 真咲も笑顔でその通りだと答えた。
「私魔法使いだけれどね」
「魔法使いは基本街で本読んだり魔法使うけれど」
「私はね」
 この通りだというのだ。
「山に住んでるから」
「それでなのね」
「ちょっと普通の魔法使いじゃないよね」
「ワイルド系魔法使いね」
「山の中に住んでるしね」
「そうよね。それでお家は」
「長城にあるの」
 山のそこにというのだ。
「お庭も広いしお家もそうだから」
「そうなの」
「広くて奇麗で」
 それでというのだ。
「いいお家よ」
「そこにご兄妹三人で暮らしてるのね」
「そうなんだ。多分お兄ちゃんと妹はまだ帰ってないけれど」
 それでもというのだった。
「お邪魔してね。それで一緒にね」
「一緒に?」
「山で採れた果物があるから」
 だからだというのだ。
「一緒に食べようね」
「それじゃあ」
 友達は真咲の言葉に頷いて彼女に案内されるまま自分にとっては険しい山道を進んでいった。そうして山の頂上に着くと。
 綺麗な広い庭の中にだった。
 白い奇麗な屋根が赤い洋館があった、友達はその洋館を見て驚いて言った。
「このお家がなの」
「私の今のお家よ」
 真咲は友達ににこりと笑って答えた。
「お手入れやお掃除は使用人の人達がしてるの」
「それで奇麗なの」
「家庭教師の人もいるし」
「あんたお金持ちなの」
「そうなるかな」
「ううん、何か色々あるわね」
「その辺りよく覚えてないけれど」
 真咲は過去の記憶は殆どない、戦争に巻き込まれたせいだが彼女は戦争のことさえも殆ど覚えていないのだ。
 家も実は最初の家は戦争でなくした、そのことも覚えていなくて友人に話したのだ。
「それでも今はね」
「このお家で暮らしてるのね」
「楽しくね。それじゃあね」
「今からお家の中に入って」
「遊ぼうね」
 真咲は友達に笑顔で答えた、そうしてだった。
 二人で家の門を潜って庭の中を進み洋館に入った、洋館の中も立派で家具もいいものだった。そうしてだった。
 その中でだ、二人で山の幸の果物達を食べて魔法やゲームで遊んだ。そうしているうちに真咲の兄妹達も帰ってきて。
 彼等とも遊んだ、だが夕方になるとだ。
 友人は外の赤くなった空を見て真咲に言った。
「もう帰るわ」
「もうなの?」
「だって山道だから」
「暗くなったらなの」
「歩けなくなるから」
 歩けるが危ないというのだ。
「だからね」
「じゃあ箒で送るよ」
 真咲は友達にすぐに答えた。
「夜になってもね、だからね」
「それでなの」
「もうちょっと遊んでいようよ」
「そうしていいの」
「うん、今日は半日で結構遊んだけれど」
 学校の授業がそれで終わったからだというのだ。
「それでもね」
「もっと遊んで」
「うん、楽しもう」
「箒って」
「私魔法使いだから乗れるし」
「けれどあんた少し」
 友達は真帆使いではないので箒には乗れない、しかし真咲の日常を見ていてそれで彼女に言ったのだ。
「高所恐怖症よね」
「大丈夫だよ、少し位の高さなら」
「飛んでもなのね」
「だから心配しないで」
 こう言うのだった。
「だから送るから」
「夜までなの」
「遊んでいよう」
「そこまで言うのなら」 
 それならとだ、友達も頷いてだった。
 真咲そして彼女の兄妹と遊ぶことにした、それでだった。
 夜まで楽しく遊んだ、それで箒で山の麓まで戻った時にこう言われた。
「また来てね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「いいお家に住んでるわね」
 山の頂上の洋館のことを話すのだった。
「本当に」
「うん、私もそう思ってるよ」
「ご家族もいて」
「皆仲良く暮らしてるよ」
「そうよね。真咲のことはよく知らなかったけれど」
 それでもというのだった。
「幸せそうで何よりよ」
「私今とっても幸せよ」
 過去は覚えてないがとだ、真咲は笑顔で答えた。
「本当にね」
「それならいいわ。じゃあまた明日学校でね」
「うん、明日ね」
「明日会おうね」
 二人で話してだ、そうしてだった。
 今は別れた、そして次の日学校で笑顔で会った。真咲の笑顔は昨日と同じくとても明るいものだった。


山奥の家   完


                2018・10・19

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