副業
 リーズは機械人間であり馬具処理を担当している、その仕事は淡々としているがその彼女を見てだ。
 ある芸能プロの社員が彼女に声をかけた。
「あの、いいかな」
「何でしょうか」
「君奇麗だね」
 リーズの顔を見ての言葉だ。
「しかも背が高くてスタイルもいいから」
「そうでしょうか」
「だからね」
 それ故にというのだ。
「芸能界に興味あるかな」
「芸能界ですか」
「モデルいけるよ」
 リーズの顔とスタイルを見ての言葉であるのは明確だった。
「どうかな」
「私がモデルに」
「モデルになれば」
 それでというのだ。
「収入にもなるし売れっ子になればテレビにも出られるし」
「テレビにも」
「どうかな」
「興味ありません」
 まずはこう答えたリーズだった、紛れもなく彼女の本音だ。
「ですから」
「えっ、いいのかな」
「はい」
 遠慮するというのだ。
「そうさせて頂きます」
「それは勿体ないよ、それだけ奇麗でスタイルもいいのに」
「だからですか」
「時間もそんなに取られないし本業があっても」
「機械人間でもですか」
「ああ、別にいいよ」
 スカウトするシャインはそれもいいとした。
「全然ね」
「そうなのですか」
「そう、全然いいから」
「機械人間でも」
「そんなの今は普通だし」
 こう言って全く気に留めなかった、リーズが機械人間であることは。
「その顔とスタイルならね、じゃあ本業と兼ね合わせて」
「それで、ですか」
「仕事してくれるかな。本業優先でいいから」
 ここからだった、スカウトはリーズにさらに話して。
 リーズは何時の間にか契約していた、それでだった。
 モデルの仕事もはじめた、だが。
 その仕事についてだ、彼女はマネージャーとなった妙齢の美女に尋ねた。
「あの」
「何かしら」
「この服は」
 モデルとして着る服を見ての言葉だ。
「一体」
「ええ、ピンク系のね」
「フリルがかなり多くて可愛らしい」
「それを着て歩いてね」
 モデルとしてというのだ。
「ショーでね。撮影もあるから」
「そうですか」
「嫌かしら」
「いえ」
 全くという返事だった。
「仕事で本業も出来ているのね」
「いいのね」
「はい、バグ処理の方も」
 こちらは実はいつもすぐに終わらせているリーズだった。
「時間はありますし」
「じゃあね。今からね」
「この服を着て」
「何着かあるから」
「その都度着替えて」
「ええ、ショーに出てね」
 こう輪してだった、リーズはその可愛らしい少女チックな服でショーに出た。表情は変わらないがそれでもだった。
 背が高くスタイルもよかった、モデル達の中でもかなり。そして顔もいいので余計に目立ち評判にもなった。
 歩く姿も整っている、それでだった。
 最初の仕事だったが好評でマネージャーに言われた。
「次の仕事のお話来たわよ」
「そうですか」
「今度は水着のお仕事だけれど」
 ここでは少し微妙な顔で言ったリーズだった。
「いいかしら」
「はい」
 一言でかつ無表情でだ、リーズは答えた。
「時間があれば」
「それでなの」
「大丈夫です」
 だからだというのだった。
「宜しくお願いします」
「それじゃあね」
 こうして水着の仕事も受けたがこの時もだった。
 リーズは何も嫌がることなく仕事を行った、それからも仕事が来て中にはかなり際どい服を着ることもあったが。
 リーズは表情を一切変えない、勿論嫌がる素振りも全く見せない。それでマネージャーもこう言った。
「あんた本当にね」
「何でしょうか」
「どんな仕事でも受けて」
 そしてというのだ。
「表情変えずに出るわね」
「そのことですか」
「嫌がらずに」
「本業が出来ていますので」
 それでというのだ。
「ですから」
「嫌じゃないのね」
「はい」
「今度は下着の仕事だったけれど」
「水着と同じですね」
「いや、デザインは似ていても」
 それでもというのだ。
「下着姿で人前に出るから」
「普通の人はですか」
「抵抗あったりするけれど」
「それでもですか」
「貴女は嫌がらないのね」
「仕事ですし」
 それにとだ、リーズはマネージャーに言葉を返した。
「それに」
「機械人間だから?」
「はい、ですから」
 それでと言うのだった。
「私はです」
「嫌とは思わないの」
「何よりも本業に支障が出ていないので」
 バグ処理のそれにというのだ。
「ですから」
「いいのね」
「私としては」
「そうなのね、ただ」
「ただとは」
「機械人間の娘も普通に感情があるけれど」
 このことを言うマネージャーだった。
「貴女は違うのかしら」
「そう言われますと」
「感情がない風には見えないわ」
 応対はしっかりしているし好き嫌いを言うこともある、それでマネージャーもそれはわかっているのだ。
「けれどどんな仕事も受けてくれるから」
「嫌がることなく」
「だからね」
 それでと言うのだった。
「そこが不思議に思ったけれど」
「それが私の性格です」
 これがリーズの返事だった。
「お仕事なら」
「何でもなのね」
「嫌がることはしない」
「それで受けてくれるの」
「本業に問題ないなら」
 それならと言うのだった。
「それで、です」
「いいのね」
「はい、本業さえ出来れば」
「そこが第一だから」
「別にです」
「いいのね」
「はい、全く」
 こう答えるのだった。
「ですからどの様な服もです」
「着てなのね」
「やらせてもらいます」
「それが貴女ね、わかったわ」
 リーズの考えがとだ、マネージャーも納得して頷いた。
「それじゃあこれからもね」
「宜しくお願いします」
「こちらこそね、ただね」
 ここでこうも言ったマネージャーだった。
「よかったら笑顔もね」
「それもですか」
「見せて欲しいけれど」
「それでは」
 リーズはこのことも嫌がらなかった、それで微笑むと。
 整った顔に実に似合っていた、それでマネージャーはリーズにあらためて言った。
「笑顔も嫌かしら」
「いえ」
 リーズは笑顔についてもこう答えた。
「特に」
「やっぱり本業に影響ないからかしら」
「はい」
 その通りという返事だった。
「ですから」
「そうなのね。それじゃあ」
「これからは笑顔もですね」
「見せていってね」
「わかりました」
 ここでまた微笑むリーズだった、その笑顔は決して悪いものではなくモデルとしての彼女のウリの一つにもなった。リーズはモデルとして知られる様になったがそれでも本業のことは決して忘れておらずあくまでそれが第一だったがそれでも問題なく活動を続けた。


副業   完


                    2018・10・20

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