オーストラリアの思い出
 佐伯涼は学生時代オーストラリアにボランティアで行ったことがある、妹は彼に家でその時のことを尋ねた。
「お兄ちゃんオーストラリアに行ったよね」
「ああ、もう何年も前だな」
 涼はペットの小寅と遊びつつ妹の問いに答えた、猫じゃらしを前で振ると無意識のうちに前足が出ている。
「楽しかったな」
「いい国だったの?」
「ボランティア頑張れてな」
 そうしてとだ、涼は妹にまた答えた。
「そしてな」
「コアラがいてよね」
「カンガルーがいてな、あとな」
「あと?」
「毒蛇も多かったな」
 妹にこのことも話した。
「結構見たな」
「毒蛇多いの」
「ああ、種類も数もな」
「それは悪いことね」
「いやいや、噛まれないといいからな」
 必死に前足を出し続ける小寅を見つつ答えた。
「だからな」
「問題ないの」
「ああ、それにな」
「それに?」
「食べものよかったな」
 その目を懐かしくさせての言葉だった。
「豪快でな」
「ああ、ステーキよね」
 オーストラリアといえばとだ、妹もすぐに察した。
「オージービーフの」
「分厚いのを何枚も食ったな」
「一回のお食事で?」
「ああ」
 その通りという返事だった。
「そんな調子だったな、牛だけじゃなくてな」
「他のお肉もなの」
「羊もな」
 こちらもというのだ。
「凄い食ったな」
「羊ね」
「マトンもラムもな」
「羊のお肉って匂いがね」
 どうもとだ、妹は今度は微妙な顔で答えた。
「私はちょっとだけれど」
「いやいや、味は抜群にいいからな」
「食べてもいいの」
「というか御前羊苦手か」
「だから匂いがね」
「美味いからな、ただ俺学生時代からビールは駄目で」
 涼はこのことも話した。
「だからな」
「それでなの」
「ああ、そっちはな」
 どうにもと言うのだった。
「苦手でお酒はワイン飲んでたな」
「結局飲むのね」
「ワインもよかたな、鮫が多くてもね」
「海のこと?」
「海もよかったな」
 すっかり懐かしむ顔になっていた、とはいってもその顔でも小寅と遊び続けていて今度は頭を撫でて身体を触っている。猫は身体を触られてゴロゴロとなっている。
「本当に」
「そっちもなのね」
「ああ、よくてな」
 それでと言うのだった。
「よく泳いだよ」
「ボランティアの合間に」
「そうしてな」
 そのうえでと言うのだった。
「楽しんでたよ」
「いい国だったのね」
「ああ、だから御前も機会があればな」
「行っていいの」
「今は忙しいけれどな」
 実は今日の仕事も忙しかった、涼の仕事は多忙なのだ。そのストレス解消に今小寅と遊んでいるのだ。
「機会があればな」
「行きたいのね」
「旅行にでもな」
「じゃあ今度まとまった休みがあれば」
「有休を取ってか」
「それで行ったら?」
 こう兄に言うのだった。
「そうしたら?」
「ニャア」
 子寅はただ鳴いただけだが妹に続いた形になった、涼はその言葉を聞いてそれで真剣な顔になって言った。
「いいな」
「そうでしょ」
「有休取ってな」
「オーストラリアに行くこともね」
「オーストラリアに行って」 
 そしてと言うのだった。
「そのうえでね」
「今度は旅行でか」
「楽しんでくれば?」
「そうだな、いいな」
「そうでしょ、そうしたらいいのよ」
「それじゃあな」 
 涼も頷いた、それで妹に顔を向けて言った。
「今度行くな」
「オーストラリアにね」
「そうするな、今度有休取って」
「そうしたらいいわよ」
「それで明日母さんに頼んで」
「どうするの?」
「羊料理作ってもらうか」
 オーストラリアでよく食べたそれをというのだ。
「そうしてもらうか」
「だから私そっちは駄目なのよ」
 妹は兄の今の言葉を聞いてむっとした顔で答えた。
「匂いがね」
「いや、その匂いもな」
「何とかなるの」
「ラムだったら匂わないしな」
 子羊の肉ならというのだ。
「それならな」
「大丈夫なの」
「ああ、御前が苦手な匂いもしないし料理の仕方次第でな」
 それでというのだ。
「その匂いも消えるし」
「大丈夫か」
「ああ、だからな」
 それでと言うのだった。
「明日羊食おうな」
「オーストラリア料理を」
「それをな」
 今も小寅を撫でながら言う、小寅は彼に前足を出して噛んだりしつつそのうえでじゃれて遊んでいる。
「楽しもうな」
「それじゃあ」
「ああ、明日な」
 涼は早速母に言った、そしてだった。
 次の日の夕食は実際にオーストラリアの羊料理だった。ラムで元々匂いがしないうえにしっかりと匂いを消す調理だったので。
 妹もすっかり気に入った、それで言うのだった。
「こうしたお料理食べられるなら」
「ああ、御前もか」
「オーストラリア行きたくなったわ」
「じゃあ夏休みにでも二人で行くか?」
「お兄ちゃんと?」
「そうするか?」 
 自分も羊料理を食べつつ笑顔で言った。
「行くなら」
「それじゃあ」
「ああ、そうしてな」
「オーストラリア楽しもうっていうのね」
「そうしような」
 笑顔で話してだ、そしてだった。
 今は羊の肉を楽しんだ、それからだった。
 涼は小寅に御飯をあげた、そうしてから妹と二人でオーストラリアのことを話した。これが二人がオーストラリアに旅行に行くはじまりだった。彼が再び行くそれの。
 そしてオーストラリアに行ってだ、涼は妹に言った。
「今は日本夏だけれどな」
「何か夏じゃない感じね」
 妹もそれはわかった。
「妙に涼しいし」
「こっちじゃ冬なんだよ」
「あれっ、そうなの」
「言い忘れていたけれどな」
 このことは申し訳なさそうに言った兄だった。
「日本とは季節が逆なんだよ」
「日本で夏だとなの」
「こっちじゃ冬なんだよ、だからサンタさんもな」
 クリスマス、冬に出て来る彼等もというのだ。
「夏に出てそうしてな」
「それでなの」
「サーフィンをしながらな」
 まさに夏のスポーツを楽しんでというのだ。
「出て来るからな」
「そこ全然違うわね」
「ああ、だから今はな」
 夏休みを利用して来たがというのだ、涼も有休をまとめて取って。
「こっちは冬だから」
「じゃあすぐにあったかくして」
「色々と楽しもうな」
「それじゃあね、そのうえでお肉食べてよね」
「海にも行って」
 そしてだった。
「コアラやカンガルーも見ような」
「毒蛇以外は見たいね」
「そっちは駄目か」
「カモノハシお願いするわ」
 毒蛇の代わりにというのだ、こう話してだった。
 二人で冬のオーストラリアでの旅行をはじめた、日本では夏だがこの国では富有だった。だが二人の旅は楽しいものになって涼は日本に帰った時に小寅と遊びながら妹にまた行こうと言って妹も笑顔で頷いた。


オーストラリアの思い出   完


                  2018・10・20

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