赤ワインとレアステーキ
 紅茜はとにかく可愛らしい外見だ、それで店のある常連客が友人達にこんなことを言った。
「あの娘好みだから」
「女の子でも?」
「だからなの?」
「ええ、お友達としてね」
 純粋にそう思ってのことだ。
「お付き合いしたいと思ってるけれど」
「じゃあお食事に誘ったら?」
「そうしたら?」
 友人達はその客に提案した、長身で中性的な容姿とファッションの彼女に対して。
「仲良くなりたいならね」
「それがいいでしょ」
「それでお話をじっくりして」
「親しくしたらどうかしら」
「わかったわ」
 それならとだ、客も頷いた。そうして茜のところに行ってだった。彼女に対して笑顔で誘いをかけた。
「今度お食事でもどうかしら」
「お食事なのですか」
「そうよ」
 あどけない顔の茜に微笑んで言った。
「お金はあるから」
「ワリカンでいいですよ」
「そこは気にしないで」
 こうした誘いをかけた時は自分で出すものだと考えての言葉だ。
「あるから」
「だからですか」
「そこは気にしないで」
 そうしてというのだ。
「二人でね」
「お食事にですか」
「行きましょう、お勧めのお店は何処かしら」
 客はここで茜の外見と性格からケーキ屋か何かかと思った、だが茜は彼女に満面の笑顔で言ったのだった。
「美味しいステーキハウス知ってるのです」
「ステーキ!?」
 そう言われてだ、意外だと思った。茜の外見と性格のイメージからは少し想像出来なかったからである。
「ステーキなの」
「はい、安くて美味しくて」
 それでというのだ。
「とてもおおお店です」
「だからなの」
「お食事に行くなら」
「そのステーキハウスに行って」
「食べましょう、ワインも美味しいです」
「ワインなの」
 ステーキにワインは合う、だがこれも茜のイメージではなく内心戸惑いながらそのうえで彼女に応えた。
「そちらもなの」
「美味しいのです」
 天真爛漫な笑顔のまま言う茜だった。
「ですから」
「わかったわ、じゃあね」
「はい、そこにですね」
「時間を決めて行きましょう」
 客はまさかステーキにワインとは思わなかったので戸惑い続けながら茜に答えた、だがそれでもだった。
 茜が紹介してくれたその店に行く日と時間も決めてそのうえで行くことにした。店は外装は一九五〇年代のアメリカの感じで内装もそうだった。
 洒落ていてマリリン=モンローやジェームス=ディーンがいてもおかしくない感じだった。音楽はプレスリーだった。
 その懐かしい雰囲気の店の中でだ、二人は二人用の席に並んで座ってすぐに茜が客に笑顔で言った。
「安いだけじゃないのです」
「こちらのステーキは」
「はい、ボリュームもあってレアだと」 
 この焼き方ならというのだ。
「血が滴って」
「血が」
 これまた茜が言うとは思えない言葉だったので戸惑った。
「滴ってなの」
「真っ赤で凄く美味しいんですよ」
「そうなのね」
「それに」
 さらに言う茜だった。
「ワインも」
「それもなのね」
「赤ワインがいいのです」
「茜ちゃん赤ワイン好きなのね」
「はい、大好きです」
 実際にという返事だった。
「ですから」
「かなり飲むのかしら」
「僕自身でもそう思うのです」
「そう、茜ちゃんお酒好きなのね」
「ワインと赤いカクテルが」
 その二つがというのだ。
「好きです」
「そうなのね」
「じゃあ今からですね」
「ステーキ、ティーボーンのコースを注文して」
 そしてというのだった。
「ワインはボトルでね」
「注文してくれるんですね」
「ええ、では今からね」
「はい、食べて飲んで」
「楽しみましょう」
 客の内心の戸惑いは止まらなかった、茜の可愛らしい外見と性格からまだイメージ出来なくてそれでだった。
 戸惑い続けていたがそこにだった。
 サラダが来てスープが来た。そしてオードブルが来て。
 ステーキだった、茜はそのステーキを見ていよいよ言った。
「ではなのです」
「このステーキをね」
「一緒に食べるのです」
「わかったわ、それじゃあね」
 客も頷いた、そうして。
 二人でステーキを食べたが美味かった、しかもボリュームがあり食べごたえがあった。客も食べたが茜もだった。 
 ステーキを満面の笑顔で食べる、レアの血の滴るそれを。そうして赤ワインも飲んでそれで言うのだった。
「美味しいのです」
「本当に好きみたいね」
「はいなのです」
 その通りという返事だった。
「僕本当になのです」
「ステーキ好きなのね」
「焼き肉も好きなのです」
 こちらもというのだ。
「そしてそちらもなのです」
「レアかしら」
「生肉も好きなのです」
「そうなの。生肉もなのね」
「はいなのです」
 こう答えるのだった。
「大好きなのです」
「意外とワイルドね。それに」 
 赤ワイン、血に見えるそれをごくごくと飲む茜を見てまた言った。
「飲むわね」
「赤ワインも大好きなのです」
「だからなのね」
「ボトル一本はなのです」
 それ位はというのだ。
「空けられるのです」
「二本はどうかしら」
「いけるのです」
 それだけ飲めるというのだ。
「やっぱり大好きなのです」
「そうなのね、いや」
「いや?どうしたのです?」
「それも茜ちゃんなのね」 
 客は自分も飲んで食べつつ述べた。
「そうなのね」
「僕なのですか」
「そう思ったわ」
 血の滴るステーキと赤ワインを楽しむ彼女もというのだ。
「そうね」
「そうなのです」
「けれどそれがね」 
 内心の戸惑いを何とか受け入れようと思いつつの言葉だった。
「人間なのかも知れないわね」
「どういうことなのです?」
「人間は色々な面がある」 102
 ここでこう言うのだった。
「そういうことね」
「よく言われる言葉ですね」
「そうね、そしてね」
 そのことはというのだ。
「貴女もね」
「僕もですね」
「誰だってそうということね」
 ここでだ、客も内心でようやくだった。
 自分でこのことを受け入れることが出来た、それで言うのだった。
「わかったわ」
「わかったのです?」
「ええ、よくね」
 こう言うのだった。
「私も」
「そうなのです」
「ええ、ではね」
 それならと言ってだ、客も。
 ステーキを食べてワインを飲んで言った。
「確かに美味しいしね」
「いいステーキハウスなのです」
「元気が出そうね」
「はい、食べものの中でもなのです」
 まさにと言う茜だった。
「ステーキは最高になのです」
「元気が出るものね」
「赤いものは情熱なのです」
「血の滴るステーキは」
「そうなのです、そしてお酒ではなのです」
「ワインね」
「それも赤なのです」
 このワインだというのだ。
「それが一番なのです」
「一番元気が出るから」
「だからなのです」
 それ故にというのだ。
「元気に食べてなのです」
「そうしてっていうのね」
「お仕事も頑張れるのです」
「そうよね、じゃあ私も食べて」
 そして飲んでというのだ。
「そのうえでね」
「お仕事頑張るのですね」
「私のお仕事をね」
「では」
「ええ、今日は最後まで食べましょう」
 楽しんでとだ、こう言ってだった。
 客は茜が気持ちよくステーキを食べてワインを飲むのを見守った、デザートは赤い苺やすぐりを使ったケーキだったが茜はそのケーキも楽しんで食べた。そうして次の日も頑張って働くのであった。客はそんな彼女を見てついつい笑顔になった。


赤ワインとレアステーキ   完


                     2018・10・24

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