百貨店の思い出
本野まいなはエルフで今は大阪府八尾市に暮らしている。
だが人々はそのまいな彼女が店で働いている時もこう言った。
「エルフが大阪にいるなんてな」
「しかもこの八尾市に」
「何か場違いだよな」
「そうだよな」
「そう言われましても」
当のまいなはこう答えるばかりだった。
「私が出て来た場所がです」
「こっちだった」
「河内だった」
昔の八尾辺りの地名も出た、大阪府はかつては摂津、河内、和泉の三国であり八尾市は河内になるのだ。
「それでか」
「八尾市に住んでるんだな」
「働いている場所もそちらですし」
本屋である、まいなは店の看板娘にもなっている。
「ですから」
「それでか」
「八尾市に住んでる」
「そうなんだな」
「はい、住んでみますと」
八尾市はというのだ。
「いい場所ですよ」
「まあ大阪程賑やかでないし」
「人は多いけれど何処か落ち着いていて」
「それでいて山本や八尾の駅前に行くとお店も多くて」
近鉄線のだ。
「大阪まで電車ですぐだし」
「いい場所だよな」
「はい、住めば都といいますが」
日本語にも日本文化にもすっかり馴染んでいる。
「八尾市いいところですし」
「そこにエルフがいてもか」
「別にいい」
「そうだっていうんだな」
「私はそう思います」
こう言ってだ、まいなは今日は恩智の方に仕事の後で遊びに行った。他には八百や山本だけでなく高安に行くこともある。
まいなはそんな八尾市での生活を満喫していた、だが彼女には少し八尾市に思うことがあった。それは近鉄線八尾駅のすぐ傍のことだ。
残念ながら、まいながそう思うことであるが今は八尾市の西武百貨店は閉館している。後には多くの店が入っている。
このことについてだ、まいなは常連客の一人が店に来た時に尋ねた。
「あの、西武百貨店ありましたよね」
「ああ、八尾駅の傍にな」
まさに降りてすぐの場所だった。
「あったよな」
「あそこですが」
考える顔で言うのだった。
「西武って球団持ってますよね」
「ライオンズな」
「経営しているグループが同じで」
「そうだよ」
その通りだとだ、常連客も答えた。
「同じ西武グループだよ」
「そうですよね、ただ」
「わかるよ、八尾駅の傍にあるけれど」
「あの駅近鉄なんで」
「近鉄も昔球団持ってたからね」
プロ野球のそれをだ。
「バファローズね」
「同じパリーグで」
「そうそう、優勝争いとかもしてきたよ」
「何か複雑ですね」
まいなはどうにもという考えに入っている顔で常連客に述べた。
「近鉄の駅のすぐ傍に西武の百貨店があるなんて」
「普通は近鉄百貨店だっていうんだ」
「そう思いますけれど」
「まあそこはおおらかっていうか」
「よかったんですか」
「西武が日本一になった時は」
まいながまだこちらの世界に来る前には毎年の様にそうなっていた、今はそこまで日本一になる頻度は多くない。
「バーデンしてたよ」
「私も行ったことあります」
西武が日本一になった時にだ。
「今では懐かしい思い出です」
「八尾では二度とないけれどね」
当の西武百貨店が閉館したからだ。
「それこそ」
「はい、ですが」
「それでもだっていうんだ」
「どうして近鉄線の駅のすぐ傍に西武の百貨店があったか」
主に野球の観点からの言葉だ。
「しかも西武って関東の方の鉄道会社ですね」
「あっちにあるよ」
鉄道会社の方はというのだ。
「関西にはないけれどね」
「そうですよね」
「一応あそこも親会社鉄道会社なんだ」
かつての西武の様にというのだ。
「関東の方にもあってね」
「それは聞いてますけれど」
「それで百貨店もやってて」
「関西にも進出していて」
「八尾にもあったんだ」
そうなるというのだ。
「進出先があそこに選ばれたんだ」
「そうなんですね」
「球団はライバル関係でもね」
「それはそれですか」
「そうだったんだ、それで本当に西武が日本一になったら」
その時はというのだ。
「バーゲンやっててね」
「私みたいにですね」
「皆買いに行ったんだよ」
「近鉄ファンの人達も」
「勿論パリーグの他のファンの人達もね」
「そうだったんですね」
「ああ、それも八尾市の光景だったよ」
西武が毎年の様に優勝していた時の、というのだ。
「本当に今じゃね」
「懐かしい光景ですね」
「そうなったけれどね」
「八尾市に西武百貨店があって」
近鉄の駅のすぐ近くにだ。
「ライオンズが優勝したら」
「バーゲンがあって」
「皆行ってたんだよ」
「ううん、それが今は」
「西武が日本一になっても」
例えそうなってもというのだ。
「百観点がなくなったから」
「ないですね」
「そうだよ、まいなちゃんもね」
彼女にしてもというのだ。
「今残念だって言ったけれど」
「二度とですね」
「バーゲンは楽しめないよ」
西武ライオンズが日本一になってもだ。
「このことはね」
「もう、ですね」
「過去だよ、けれど」
「はい、過去は過去で」
「これから生きていかないとね」
「そうですよね、私にしても」
「お店のこともあるし」
常連客はまいなに彼女が本屋の店員であることを話した。
「だからね」
「それで、ですね」
「そう、頑張っていこうね」
「わかりました、八尾もこのお店も大好きですし」
この世界に来てからずっと住んでいてそうなった、それならだった。
「では」
「うん、それじゃあね」
「私これからも頑張っていきます」
「そうしてね」
常連客もまいなに笑顔で応えた、そのうえでお店の仕事に励んだ、八尾市にいるエルフは今日も元気だった。
百貨店の思い出 完
2018・10・24
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