青空の下で
縹葵は基本無口で好きな色はとにかく青だ、それで青い色の食べものも好きだが葵自身はこのことで周りをいつも気にしていた。
「おかしくない、ですよね」
「ああ、青いビールが好きとか」
「はい・・・・・・」
親しい常連客、女性の彼女に言うのだった。
「そうですよね」
「ビールはビールでしょ」
これが客の返事だった。
「だからね」
「それで、ですか」
「黒いビールもあれば」
所謂黒ビールである。
「実は黄色でもね」
「その黄色も、ですか」
「ビールによって結構違うから」
それでというのだ。
「だからね」
「それで、ですか」
「そんなね」
「青いビールが好きでも」
「人の好みはそれぞれだし」
このこともあってというのだ。
「だからね」
「いいんですね」
「そうでしょ。何だったら今度ね」
「今度といいますと」
「その青ビールを」
葵が好きなそれをというのだ。
「青空で飲んでみたら?青魚を肴にね」
「お外で、ですか」
「お花見みたいにね」
そうした風にしてというのだ。
「そうしてみたらどうかしら」
「そうですね」
少し考えてからだ、葵は客に答えた。
「今度のお休みの時晴れだったら」
「その時になのね」
「やってみます」
こう友人に答えた。
「そうしてみます」
「それじゃあね」
客は葵のその言葉に笑顔で応えた、そうしてだった。
実際に次の休日晴れであったので近頃冷凍技術がこれまで以上に進歩した結果か流通が以前よりよくなった為か結構普通に出回る様になった青魚の刺身に青ビールも買ってだった、そのうえでだった。
外に出てその組み合わせで食べようとした、だがここで一緒に住んでいる妹に言われた。
「お姉ちゃん何処行くの?」
「お花見じゃないけれど」
葵は家でも無口なので妹にもこう返した。
「ちょっとお外に出て食べて飲もうかって」
「そう思ってるの」
「青ビールに」
それにというのだ。
「青魚で青空の下で」
「楽しもうっていうの」
「そうなの」
こう言うのだった。
「これから」
「ううん、何かね」
「何かねっていうと」
「そう聞いたらね」
それならとだ、妹は姉と正反対に明るいお喋りな感じで言ってきた。ただし外見は姉に結構似ている。
「私もね」
「一緒になの」
「行ってそうして二人で」
そのうえでというのだ。
「楽しみたいかなって」
「飲んで食べて」
「そうしてね」
そのうえでというのだ。
「そう思ったけれど」
「じゃあ」
葵は妹の言葉を受けてそれならと答えた。
「これから」
「ええ、お姉ちゃんはお刺身とビールよね」
「青魚と青ビールよ」
「私はお家の中にあるもの持って行って」
そうしてというのだ。
「そうしてね」
「二人で」
「うん、食べよう」
こう姉に言ってだ、妹はすぐに家の中から酒と肴になりそうなものを探した。するとあったのは日本酒と冷奴だった。
そのうえで姉と一緒に外に出て家の近所の公園の見晴らしのいい青空の下にある野原に敷きものを敷いてだった。
二人で向かい合って座って飲み食いの用意をした、だがここで葵はお互いの酒と食べものを見てから言った。
「何か・・・・・・」
「ああ、ビールにお刺身にね」
妹は姉の言いたいことを察して述べた。
「それにね」
「日本酒と冷奴は」
「女の子が外で飲んで食べるには」
「違う感じがするわね」
「居酒屋よね」
メニュー的にというのだ。
「そちらよね」
「どう考えても」
「そうよね、ただね」
「それでもよね」
「折角だから」
青空を見上げてだった、妹は姉にさらに話した。
「雲一つない青空だし」
「それだったら」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「飲んで食べて」
「そうして」
「楽しもう」
「それじゃあ」
葵は妹の言葉に頷いた、幸いにして刺身もビールもかなり買っている。それ等に口をつけて飲んで食べてみると。
家の中で食べるより遥かに美味かった、葵の好きな色である青しかない見事な空をいつも見ているだけにだった。
普段より美味かった、それで葵は妹に言った。
「いつもよりずっとね」
「ええ、私も思うわ」
妹も日本酒と冷奴を楽しみつつ姉に答えた、二人共醤油やそれぞれの薬味の用意もちゃんとして食べている。
「これは美味しいわね」
「そうよね」
「あんまりにも美味しくて」
それでというのだ。
「お酒幾らでも飲めるわ」
「私も。ただ」
大好きな青ビールを飲みつつの言葉だ。
「飲み過ぎるかも」
「ビール結構持って来てるわね」
見れば葵の周りに結構な数の缶がある、全部青ビールのものだ。
「そうよね」
「ええ。けれど」
「そのビールも」
「全部飲むかも」
「お刺身も食べて」
そうしてというのだ。
「すっかりね」
「酔っぱらうかも知れないのね」
「今日はお休みだけれど」
「それでもっていうのね」
「明日大変かも」
「二日酔い?大丈夫でしょ」
こちらの心配はだ、妹は大丈夫だろうと笑って話した。
「だって今お昼だし」
「だからなの」
「夜には結構以上にお酒抜けてるし夜にはお風呂に入って」
そうしてというのだ。
「お酒もっと抜けてすっきりするから」
「その頃にはお風呂に入っても大丈夫だっていうのね」
「ええ、お酒が抜けててね」
それでというのだ。
「だからね」
「明日のことは心配いらないのね」
「そう、だから」
それ故にというのだ。
「今はね」
「沢山飲んでいいのね」
「青空の下で飲んで食べたら」
それでとだ、また言う妹だった。
「本当に美味しいから」
「それは私もだけれど」
「今日はもうね」
「とことんまで飲めっていうのね」
「そうして」
そのうえでというのだ。
「楽しみましょう」
「そうね」
葵は少ない言葉のままで妹に応えた。
「青空の下でいたら気持ちいいし」
「お姉ちゃん青が好きだしね」
もうこれは妹もよく知っていることだ、食べものも服も好きな宝石も全て青だ。今も青魚の刺身に青ビールを飲み食いしているしだ。
「だったらね」
「徹底的に」
「今日は飲みましょう」
そして食べようとだ、妹は自分からだった。
飲んで食べた、すると葵もその妹についていく形で飲んで食べた。
そしてその翌日店に来た常連客に言った。
「妹と一緒になりましたが」
「よかったわね」
「はい・・・・・・」
客にこう答えた。
「楽しんで飲めました」
「青空の下はいいでしょ」
「開放感があって」
「貴女青が好きだしね」
「本当にそのこともあって」
「そうでしょ、だったらね」
客は葵に笑顔で話した。
「これからも機会があれば」
「その時はですね」
「外に出て」
「青空の下で飲んで食べる」
「そうすればいいのよ、例えば夏なら」
客はこの季節の場合も話した。
「葵ちゃんかき氷も好きだけれど」
「ブルーハワイですね」
「それを食べてもいいでしょ」
「そうですね」
「あとは海を見ながら」
ここでも青だった、マリンブルーの海からの言葉だ。
「そうしてね」
「ブルーハワイを食べてもいいですね」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「夏もいいでしょ」
「そうですね」
「だからまた機会があれば」
「青空や青い海を見ながら」
「そうしたものを食べればいいわ」
葵の好きな青いものをというのだ。
「そうすればね」
「わかりました」
葵は言葉少なめで客に答えた。
「そうします」
「そういうことでね。ただ」
「ただ、何でしょうか」
「随分飲んだって言ったけれど」
それでもというのだ。
「二日酔いの感じしないわね」
「夜にお風呂に入ったので」
昼に食べてとだ、葵は客にこのことも話した。
「妹もそうでしたけれど」
「だからお酒抜けてなのね」
「すっきりと寝られて」
それでというのだ。
「朝にお酒は残っていなかったです」
「そうなのね、じゃあ今日も」
「気持ちよく働いてます」
笑顔で言ってだ、そのうえでだった。
葵はその静かで引っ込み思案な感じだが誠実さが出ている笑顔でで仕事にあたった、その笑顔がまた客達には好評だった。
青空の下で 完
2018・10・25
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