クリスマスだが。
さて、欧米文化の流行は独り身であるオレを容赦なく拒絶してくる。
雪景色のあちこちはカップルで溢れているし、距離というのは自然と近くなるものだ。
喫茶店でくつろごうかとしていた手前、その店がカップルで溢れかえっていたら、そりゃあ居たたまれない。
そういうワケで、寒空の下を歩いているという顛末だが……ショッピングモールに出向いても結果は変わらず。
このまま知り合いに会わないうちに部屋へ戻ろうかとしたところで、さて困った。
「「…………」」
人間、波長が合う相手にはどうにも無言になりがちだ。
お前もか。という無言の確認と、ちょっとした気まずさ。
いたずらを見つけられてしまったような居心地の悪さだが、溜息と共に吐き出していく。
目の前にいる皐月の姿は、どう見ても数秒前の自分であった。
「よう」
「……、おはよ」
どことなく不機嫌そうな声だ。
まぁ、今の状態で機嫌が良くなる相手がいるのだとすれば、それこそ異常かも知れないが。
「一人で回ってるのか?」
「見ての通りだけど」
「……ま、そうだな」
てっきりアルトと待ち合わせてるのかと思っていたが、違うらしい。
このまま見つめあっているのも精神的によろしくないので、どうにか話題を振ることに注力してみることにする。
「ここに来たってことは、何か買い物か?」
「そんなところだけど」
「何を買うんだ」
「……それは内緒」
クリスマス一色に染め上げられている店内で、これから別々に行動するというのもおかしな話だ。
とはいっても、互いに用事があるという手前、色々と間が悪い。
「このまま二人で歩くのも、どうなんだろうな」
「兄は、私と一緒にいるのが嫌なの?」
「……普通に考えて、それはないだろ」
少し前までの彼女ならば考えられないような発言だが、どう考えても元凶はオレである。
彼女が良しとするなら、それ相応の責任を支払うことにしよう。
「それで。オレはどうすればいい?」
「んー、とりあえず一緒に店を回ってほしいかな」
「へいへい」
さて、皐月はこの状況を分かっているのか、いないのか……なんて、どう考えたところで、分かってやっているのだろうが。
今は互いに素知らぬふりをしたまま、好き勝手に店を散策していく。
そうして、彼女が購入したのは狐色のマフラーで、オレは子猫のぬいぐるみだ。
帰る道中で確認したことだが、妙な共通点である。
「……狐、ねぇ」
「にゃー」
「……わざわざ真似までしなくて良いだろ」
控えめに言ってくそ可愛いなおい。
いや、まあ。互いの購入したものが誰に贈るものであるかなんて、そんなことは火を見るよりも明らかだろう。
それこそ、二人で選んだものだ。
「……ある意味、こういうのも悪くないのかもな」
「まあ、兄に贈るとは限らないけど」
「オレに贈らないにしても、朝軌兄がいるだろ」
「プレゼントを自分に贈るっていうのも流行ってるけど?」
意地が悪いというか、わざわざそうしたことを言うあたり、かなり毒されているようだが。
「――どうなんだ?」
ペースを握られている手前、あまり強い拘束力もないだろうが、目を見つめたまま固定する。
悪役ならば悪役らしく。
ほんの少しだけ対抗心を燃やしてしまったが、それも難しいことだろう。
「なんてな」
自分がどれだけ不器用なのか、よくわかる。
いくらでも賢い手段を知っているはずなのに、それを使えない。
「…………、」
なんて、思っていたんだが。
「……それは狡い」
真っ赤になった皐月の恨みがましそうな顔が、酷く心を打ち付ける。
いや、お前も十分に狡いんだが。
思わず出かかった言葉を、どうにか飲み込む。
ゆったりと降り始めた雪に視線を向けて、追及から逃れることに決めた。