決意の金曜日

「……失敗したかなぁ」
 木曜日の夜、羽馴さんは現れなかった、流石に強引過ぎたのだろうか。
 そう思いながら学校に行った。

 帰ってからは何もする気が起きなかったのでただテレビをつけて椅子に座っていた。
「あーあ」
 何もせずに夜、ただベットに寝転がっていた。

「何してるんですか? だらしないですよ」
 聞こえたのは最後に聞いた冷たい声じゃなく、椅子に座って話した時の優しい声だった。
 咄嗟に起き上がって後ろを振り向くとその声の主、羽馴さんがそこにいた。
「羽馴さん」
「昨日はすみません、気持ちが整理できなくて」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「羽馴さん……」
 俺が無意識に呟くと羽馴さんは優しい顔で口を開いた。
「未練……晴れました」
「え……?」
「あなたのおかげでわかったんです、知っている人がいなくても……それが当然なんですよね」
「……」
 俺は羽馴さんの話を静かに聞いていた。
「新しい世界に来たんです、それに知らない人だって……優しい人だっているんですね」
 そういって羽馴さんは俺の方に近づいて言った。
「これで……あっちの世界に行けます」
 俺はその意味を少し考えて始めて口を開いた。
「行ってしまわれるんですね」
 羽馴さんは少し悲しい顔をして
「すいません……」
「どうしても、行くんですか?」
 我ながら未練がましいとは思うけど諦めきれなかった。
 羽馴さんは少し間を置いて力強く言った。
「決めたんです」
 俺はその一言に羽馴さんの決意を感じた。
 これ以上は無駄、そうわかっているのに諦められない。
「でも……」
 もう少しだけでも、そう言おうとした俺を羽馴さんが制した。
「決めたんです、明日のこの時間、最後に会いにきます」
 そう言って羽馴さんは見えなくなった、声も、動く音も聞こえなくなった。

健道 長楽
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健道 長楽

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