変化の木曜日
木曜日、私は男性の部屋の裏に一人でいた、時間は午後の六時頃。
{あなたの未練!! 俺が晴らしてみせます!}
数日前出会ったばかりの男性は見えないはずの私に向かってそう言った。
「…………」
目から涙が落ちた、声だけはなんとか抑える。
「……うう」
嗚咽が漏れた、慰めてくれる人はもういない、忘れていた、押さえ込んでいた感情が溢れ出してきた。
人間というのは生物の中でも霊的な物の影響を受けやすいらしい。
「だから……」
だから人間と霊が共にいると人間は霊に影響され霊に近づいていくのだ、つまり死に近づいていってしまう……だから……
「羽馴……さん? どうしたんですか?」
あの男性の声が聞こえた、不可視にするのを忘れていたようだ、私は見えないように涙を拭いて男性の方を向いた。
「なんにもありません」
わざと冷たい声を出す、すると男性の顔が少し歪んだ。
「羽馴さん!」
男性が少し大きな声を出した、男性の顔を見ると真剣な顔になっていた、なんとか表情を変えずに冷たい声のまま答えた。
「なんでしょうか」
「そんな声出さないでくださいよ」
これ以上言わないで、心の中でそう叫びながら冷たく言い放つ。
「この話し方でわからないんですか? 私にかかわらないでください、私は貴方が嫌いです」
男性は真剣な顔のままで口を開く。
「わかりますよ、わざと突き放そうとしてるんですよね、なんでですか?」
私は口を閉じて男性の反対側を向いた。
「何言ってるんですか、理解できません、それじゃあ」
私がそのまま壁に入ろうとすると男性は静かな、そして力強い声で言った。
「あなたは一人じゃありませんよ」
私は男性の方を振り返った、男性はそのまま話を続けた。
「俺が、俺でよければあなたの傍にいます」
その言葉を聞いた私はその場にいることに耐え切れず壁の中に入った。
「待ってますよ!! 夜にまた会いましょう!」
男性はそう叫んだ。