五・君に、伝えたい事がある。〜僕が憶う人へ〜
この話は椿にはまだ一度も話していなかっただろうか。それでも良いかもしれない。いつか話してやろうと思う。でも、それは今じゃないなぁ。遺伝する訳ないだろバカ、とけなされるような話でも、君以上にずっと強烈じゃないか、椿は。
君に、伝えたい事がある。
母親って言うのは、本当に強くて大きな存在だと思う。だってそうだろう。君を失う事だけを恐れ続けた僕と違って、君は君自身をも失った後に残り続ける命の輝きを知っていた。
君を失ってからの僕に、こんなに素敵な世界をくれた。
君が僕にくれたもの。くれた心。思い。全部が愛おしい。僕は君に会えて、君と別れたこの世界で、今とても幸せだから。
君にとても、伝えたい。
君に会えて、君と別れてしまったけれど、君達に会えて、本当に、良かった。
ありがとう。
笑い泣き一筋、それを横から拭う様に舞った花びらが僕の肩に乗った様に見えて。その一瞬後に離れていって。
――それで十二分だと、思った。