四・似た者同士
「梓は、花びらを乗っけるのがうまかったんだ」
親父がお袋の写真を手に取り笑って言った。お袋の写真に、梅の花びらが一枚だけくっ付いていた。
「まぁ、乗っけるって言っても、自分から進んで乗っけるんじゃなくて、勝手に花びらの方から乗っかってくるんだけどな」
写真にくっ付いていた花びらを、親父は太い指でつまみ上げてそのまま自分の頭に乗せる。その瞬間に、
ぴゅう。
と風が吹いて、すぐさま花びらは飛んでいってしまった。
「ところがどっこい、僕はいつもこんなんだ。羨ましいと言われたけどな。梓には」
親父が俺の髷の辺りを見ている。
「なんだよ」
「お前の髷に引っかかったりしないのかなって思ってな。……やっぱ引っかからないもんなんだな。僕に似たんだな」
最後の言葉の時だけ、むやみやたらに笑顔がまばゆ過ぎて少しだけイラっとする。
「どうせ俺はお袋には似てねぇよ」
お袋の写真を見られればそのあまりの似ていなさに驚かれ、最悪悲鳴をあげられる。今まで経験してきた周囲の反応が面白いくらいに頭に蘇ってくる。
「冗談。お前は梓にもきちんと似ているさ」
親父が最後の一口を呷ってしまうのと、
「ただいま。まだいたんだ。勇邁」
という椿の声がほぼ同時だった。
「思うより早いお帰りで……ぷっ」
椿に視線を向けた親父がいきなり吹き出してしまうものだから、俺は親父がいきなり吐くんじゃないかと思ってしまったが、
「外で呑んで話してさぞや楽しかったんだろうな。ねぇ。なんで私だけがこうなるのか教えてもらえる?」
というちょっとした怒りを込めた言葉の主を見てみる。するとその答えは簡単なものだったとすぐわかる。
「この花びら、私の頭とか肩とかに降り掛かりまくってウザいんだけど。どうして二人は平気な訳?」
赤みがかった髪とお袋のお古の振り袖の肩にたくさんのピンクを乗せて、しかめっ面をした椿は必死に花びらを叩き落としていた。叩き落とせば叩き落とす程、また新たにぴゅうぴゅう吹く風に煽られた花びら達が俺達三人を包んでは、ご丁寧に椿だけに引っ付くのだ。笑いが止まらなかった。
はっはっはっは! 親父と一緒に笑っていたら蹴りを入れられた。
「答えって言ったら、なぁ?」
「そうだよな。親父」