八・黙ってみろよ! ガーゴン
それから一週間後、映画を見に行くことになった。大盤振る舞いな割引があるような場所だ、規模も小さな、田舎の古ぼけた映画館、そして親子連ればかりの映画館に、高校生が八人群れをなして入る。
異様な光景じゃ、ねぇよな?
香織さんがいなかったらまず口をついて出ていたであろう文句の一つを心の中だけでつぶやく。制服を着ているでも無く、簡単にバレやしねぇよ。誰に言うでも無く心で呟く。
映画自体は、まぁ、あれだ。子供向けだ。うん。そこに色々言ったって始まらねぇ。ただ、
「そこだ! 頑張れ! ガーゴン!」
「立てー! ガーゴーン!」
「ガーゴン」
「それガーゴン!」
「頑張れ……頑張れ、ガーゴン……!」
俺以外皆子供と一緒に大声あげてガーゴンの応援をするんだよな。これ、すっげぇ不思議な気分だった。なんかこう、アーティストのライブとか行って、自分だけ専用の応援の振りを知らずに行ってしまって浮く、みたいな。もしくは、夏休みの宿題を準備してたら周りが俺の知らない課題を提出しだす、みたいな。あーいう気持ち。あれだろ? ここ、ガーゴンファンしかいないんだろ? もうガーゴンファンしか住んでない町なんだろ? もしくはあれか? ガーゴンファンが住んでる町なんじゃね?
とりあえず映画って、静かに見るっていうのが最低限のルールなんじゃね? っていうレポートを俺は提出したということだけ、最後に言っておきたいと思う。