Preface

「真実は闇霧の中にある」
我が夫ジェフリー・パトリックが残した言葉である。

雨に晒された石畳の縁の苔の如く、
或いは鏡の中の視界の隅の影の如く。
それは我々の認識外の位置にひっそり根付く。

そして人間が認識する世界は
他者のそれと同じとは限らない。
想いは永遠ではなく、むしろ刹那。
記憶は鮮明ではなく、むしろ曖昧で不確か。

つまりここに記した幾つかの事象が
「闇の中に残された真実」なのか
或いは
「個人の不確かな記憶の中の虚実」なのか。

その全ては読者諸氏の判断にお任せしたいと思う。

　　　　　Early summer, London,Southwark
　　　　Ilis E. Glays