「ね、みやびちゃん。引退したんだから、もう部内恋愛じゃないよね?」
「え」
「ね。だから、付き合って」
「いや…急に言われても…」
「急って、俺入部からずっと言ってたけど?」
勇太がみやびの顔を覗き込む。
近い。
みやびは一歩後ずさった。
「でも…」
「好きな奴いるの?やっぱり芝田の事、好きなの?」
「…そうじゃなくて…これから受験勉強しなきゃだし…」
じりじりと近づいてくる勇太に、みやびは同じ歩幅で遠ざかった。
「みやびちゃん、学年一の才女のくせして何言ってるの」
「そんなんじゃないけど」
「ダメ?」
「えっと…」
煮え切らない態度のみやびに、勇太がポンと手を打った。
「じゃ、とりあえず1回デートしよ。それくらいならいいでしょ?」
「…」
「明日空いてるでしょ?」
「何で決めつけるの」
「だって、今日勝ってたら明日も試合だったんだから。予定入れてるわけないよね」
「う…」
「じゃ、明日10時に駅ね。水族館行って、その後ご飯食べよ」
「え…でも…」
「じゃあ、明日ね~」
ひらひらと手を振って去っていく。試合のダメージは残っていないのだろうか。みやびは呆れながら見送った。
どうしよう。デートすることになってしまった。
「瀬良くんと2人なんて、何を話せばいいのかしら」
みやびは疲れた体を湯船に沈めながら、それ以上に気分が沈んだ。
疲れすぎて眠れない。
引退したなんて、まだ信じられない。明日から部活に行かなくていいと言われても、どうしたらいいのかわからない。
この高校生活、自分は部活しかしてこなかったと言っても過言ではないのだ。
何度も寝返りを打ちながら、みやびはほとんど一睡もできなかった。
秀ちゃんはどうなんだろう。
バスケのない秀ちゃんなんて、想像できない。
肘、どうしたかなあ。ちゃんと病院行ってくれるかなあ。何ともないといいけどなあ。
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