籠の鳥と鳥のエサ
「生きてるのと死んでるの違いは何なのかしら?」
髪の長い少女の問いかけに、制服姿の少年は頭を一つかく。そして、ハンバーガーショップの喧騒に負けない程度の声で答える。
「生物学的には、心臓の挙動でしょうな」
「そうね。この疑問が生物学の問題なら正解でしょうね」
少女はそういうと、ハンバーガーを一口食べる。それを見ながら少年は口端をあげる。
「なんだ、その顔は。私の顔に何か付いているのか?」
少女は不愉快そうに、鞄を開け鏡を取り出すと自身の顔をみやる。
「いやいや、そうではないですぜ。お嬢」
そういうと、少年はハンバーガーを一口。
「初めて二人でここに来たときのこと覚えてますかい?」
少女の顔が少し赤くなる。その時のことを思い出したのだ。
「あの時に比べて随分と食べるのがお上手になったもんだなぁと」
「う、うるさいぞ。使用人の分際で」
少年の顔色が変わる。少女は慌てて言葉を続ける。
「す、すまん。そういった意味では」
身振り手振りでの謝罪。思わず少年は吹き出す。口から飛び出た内容物が少女を汚す。
「な! 何をするのだ!!」
少女が慌ててテーブルの紙ナプキンで顔を拭う。それすら、少年にとってはおかしい。
「す、すいませんね」
謝罪の言。しかし、今だに腹を抱えて笑う状況に謝罪の意思は感じられない。ひとしきり笑い声をあげたあ少年は、両手を合わせ、再度謝罪した。
「中学の二年でしたね。お嬢と、初めて会ったのは」
少年は食べ終わったハンバーガーの紙をぐしゃぐしゃに丸める。そして、口についてソースを拭う。
「俺が親の事業がぶっ潰れちまった関係で引越しをして。仕事がないからと知り合いの家の使用人になることになって。そこで初めてお嬢にあったときは、何で生きてるんだろうと思ってましたよ」
そういい、ジュースをすする。中身はほとんどないのか、ズルズルと音を立てている。
「金持ちに生まれて、使用人を何人も抱えてんのに。人生捨てようとした親父より、それにつき合わされたお袋より、なんもいいことないと思ってた俺よりつまんなそうに生きてましたもんね。ホント、俎板の上の鯉より死んだ目をしてましたもん」
少年は、ニヤリと笑う。
「うるさいなぁ、あの頃は…… その、そういう年ごろだろう」
少女は膨れる。少年はそれをいいことに少女のポテトをひょいとつまむ。
「あの頃って、まだ三年くらいしかたってませんぜ」
「全く。もういい。お前とは口をきかん」
そういうと、慣れた手付きでテーブルを片付ける。少年は、紙コップの上のカバーを取ると氷を一噛みする。
「行くぞ。使用人」
少女は、自分のトレーを少年のトレーに重ねて持って行ってしまった。