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電子音を聞くと、調整されていた時の記憶が沸き上がってくる。感傷じゃない。単純に、事実と過去としてひなたは受け止めているつもりだ。
『君はサンプルだ』
研究員の一人が言った。識別名は”フラスコ”だったと記憶している。”フラスコ”は、ひなたが意味を理解している理解していないを別に、自身の台詞に酔うかのようだった。
『君はサンプルだ。故に感情は必要無い。迷いも必要無い。君の産まれてきた価値とは、道具に過ぎないからだ。道具は使われる事を恐れない。それは摩耗を恐れないという事だ』
”フラスコ”はコンピュータ上の数字を確認しながら言葉を進める。
『だがそんな中で、君は両親に愛されたいという感情に支配されている。それはマヤカシである事を認識すべきだ。二人は実験室における”シャーレ”と”スピッツ”でしかない。彼らもまた器具だ。感情は排他している。そんな二人に愛情を求めるなど、愚問じゃないかい?』
彼のご高説は続く。
ひなたは何となく思い出していた。
あぁ、この時か。
この時、私は炎という狼煙を上げたのだ。どうでもいい、つまらない独演会だった。彼は、管理する事で優位になっていると信じている。私が道具である事に異論は無い。私に自己決定はできない。実験を繰り返す。細胞の調製を繰り返す。それしか、宗方ひなたにはできないから。
ただ─────。
ひなたには許せなかった事があった。
両親を否定する事を、だ。
ひなたにとっては、それが全てだったから。
報われない事はもう知っている。手を伸ばす事すら許されない。道具? そんな生易しいモノじゃない。研究員達が常に言ってるじゃないか。
【化け物】
と。すでに知っているから。自分の能力だって。私はバケモノで、私はドウグで、多分、ミライなんてものは私には無い。幼いながらに覚悟を決めていた。
でも─────。
両親を否定する事は許さない。
そこから生まれた炎。その身勝手な炎が焼きつくした事で手に入れた自由。政府による低レベルの監視がある事を除けば、ひなたは自由だった。
その自由を得た代わりに─────ひなたは─────あの少年を焼いてしまった。ざらざらとした記憶の中で、焼かれてなお笑顔を向けたあの少年の顔を忘れるはずが無い。
あの少年の顔が、水原爽に重なって。
なんで?
どうして?
胸を焦がすのは何故?
ひなたは大きく息をついた。
────私はバケモノだ。