第二歩
あの人生を変えるようなパスから三年後。
俺たちは三人で放課後の教室にいた。
「何故なんだ!」
いつもの通り親友の井上侑が窓際に腰掛け叫ぶ。
窓からは夕方の暑さを手懐けるように、心地よい風が俺たち以外いない教室に吹き込んでいる。
「何故俺には彼女が出来ない! イチャイチャしたいぞ、チャリ二人乗りしたいぞ、降りた瞬間チラっと見えるパンツを凝視したいぞ! いや見るだけでは飽き足らん、出来れば……」
「こっからダイブしたいなら止めないから」
櫻井明日菜が整った口元から小気味よく死刑宣告を下す。。
いわゆるモデル体型、陸上で鍛えた程よく引き締まったウエスト、長い手足。
健康的な肌の色と凛とした瞳は、明日菜を少しだけ大人っぽく見せているかもしれない。
まあ俺にとっちゃただの料理ベタなんだけど。
異性だなんて意識したこともない。
試しにちょっと意識してみる……、だめだ、寒気がする。
おおう夏なのにサブイボサブイボ。
俺、三浦航平を含めた3人は教室の窓際で、ぼんやりと女子テニス部の練習とひらひらしたスコートを眺めていた。
「ここ三階だぞ! それとも飛んだら彼女出来んのか?ならフライハイもやぶさかでない! おいきなさい、ハイ喜んで!」
侑はよく判らないリアクション。
さっきの死刑宣告発言の主、明日菜とは幼稚園からの腐れ縁だ。
実は家も隣同士、ちっちゃいころには風呂だって一緒に入っていたらしい。
……そう言えば小学校に入ったあたりから、明日菜のパンツ見てないな。
「明日菜、パンツ見せてくれ」
「は? なんで?」
俺は気心知れた相手にはとてもストレートだ。
明日菜はスカートを両手でぎゅっと抑えつけ、そっぽを向いてしまった。
どうやらパンツは見せてくれないらしい。
ちょっと顔が紅潮してるのは気のせいか。
帰宅部三人、まったりと無駄で素敵な時間を過ごしている。
侑はついこの間までサッカー部五軍のゴールキーパーだったのだが、「モテないよー、五軍じゃモテないんだよー、ボールは掴めてもガールのハートはキャッチ出来なかったよー」と情けなく言い残してサッカー部を去った。
明日菜は中学まで陸上をしていて市内最速女子の呼び声も高かったのだが、高校に女子陸上部が無いと分かるとすぐに俺と同じ帰宅部になってしまった。