第十一歩

「俺が小学生の頃に、班の名前決めで同じように揉めたことがあってさ。その時にこのやり方でうまいことすんなり決まったんだ。」
侑とのえるが言葉の続きを待つ。
「まず紙切れをたくさん用意して、各自五枚ずつ持つ。そしてその五枚の紙に好きな言葉を書くんだ。どんな言葉でもいい、長い言葉でも一文字でも、外国語だって構わない。書き終わったら、神経衰弱を始める時みたいに紙を裏にして机の上に並べる。その後適当に選んだ二枚を表にするんだ。その二つの単語を組み合わせたものがチーム名になるってわけ」
俺はこのやり方に賛同した侑、のえると一緒にコピー用紙を短冊型に切り(明日菜は「名前なんてどうでもいい」と、ソファに体育座りしながら二杯目のハーブティーをゆっくり飲んでいる)、それぞれが書いた紙をランダムに机の上に並べた。
「じゃあいきますわね」
準備が整い、のえるが少し緊張した面持ちで二枚の紙に両手をかける。
「いっちゃって下さい!」
侑の言葉を合図にのえるが紙をめくる。
一枚目の紙は「THE」、二枚目の紙は「死」。

THE・死!

重い沈黙がリビングを包む。
3人とも言葉が出ない。
まだ衝撃を引き摺りながら、気丈にものえるはその後何度も紙をめくる。
『のえるちゃんと・疾風のエターナルストラッシュ』
『FC・ニーハイ』
『努力、友情・突然のビッチ襲来で僕はもう我慢出来ない』
さっきより重い、重すぎる沈黙に三人で耐える。
のえるは死んだ目で虚空をぼんやり見つめながら身動き一つしない。
推測だが、侑のせいで全てが壊されているような気がする。
全身で『やっちまった!やらかしちまった!』と語っている侑の姿を認め、俺の推測は確信に変わった。
違う惑星かと思う程のとんでもない重力に三人で耐えている時、突然明日菜の声が聞こえた。
「カモミール」
ああティーポットの中のお茶が無くなったんだな、と思いハーブティーを新しく淹れ直す為にキッチンへ向かおうとすると
「違う、チーム名。カモミールでいいんじゃない? おいしいし」
「……もう、それでいいですわ、もうたくさん」
「……俺もそれでいいよ、構わない」
憔悴しきったのえると侑は、力なく頷いた。
もちろん俺もこれ以上無益な話し合いを続けたくはない、のえるが言った通りもうたくさんだ。
明日菜は俺にも異論が無い事を目で確かめると、「じゃあ、決まり」と場をしめて冷めてしまったお茶を飲み干しおかわりを俺に催促した。
「もう一杯飲みたい」
キッチンでもう一度お湯を沸かしながら、三人寄れば文殊の知恵って嘘かもな、とぼんやり考えていた。
船頭多くして船山に登る、こっちは正しいかもしれない。
いやあ、人生って勉強の連続だなあ。

寝太郎
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寝太郎

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