第十九歩
校門から少し外に出たところで、息を切らしながら五十嵐を捕まえる。
「うす、今帰り?」
少し驚きながら振り向いた五十嵐と目が合う。
「あれ、三浦君、さっきまで教室で明日菜ちゃん達と話してなかったっけ?」
「まあそうなんだけどさ。そんなことより今日予定ある?」
駄目で元々、いきなり本題を切り出す。
「別にないよ、どうして?」
「ジェットのセカンドアルバムがうちにあるから、今から取りにこない?」
気づけばいきなり誘っていた、もう後はなるようになれだ。
「また学校に持って行ってもいいんだけどさ、音楽の話もしたいし、お茶ぐらい淹れるし。俺ハーブティー淹れるのが得意でさ、すげーうまいんだぜ。明日菜もこれだけは褒めるぐらいでさ、ちょっとだけおいでよ、家族もいないから気を使うこともないし」
断る隙を与えないよう、矢継ぎ早に話す。
「うーん、せっかく誘ってくれるのは嬉しいんだけど、今日はやめとこうかな」
「大丈夫、何にもしないから!」
言ってから『しまった!』と思った。
何を言っているんだ、俺は。
いや、確かに何かするつもりなんてないんだけれども、これじゃあまるで何かしようとしているやつが自分の下心を隠して誘っているみたいじゃないか。
こんな事を言ったら逆に警戒するに決まってる。
ふと五十嵐の方を見ると、クスクスと可笑しそうに笑っていた。
「ごめんね、急に変なこというから笑っちゃった。何にもしないのはわかってるよ?そんな大声で宣言しなくても大丈夫だよ」
「い、いやあのね、ジェット以外にもオアシスとかマルーン5とかおすすめのバンドがあるんだ。どうせ全部パソコンに入れてるから二十枚でも三十枚でも持ってっちゃってよ。俺んちCDたくさんあって邪魔だからさ、一時的にでも減るとラッキー、なんて思ったりして」
俺は赤くなりながら必死に続けた。
もう自分で何を喋っているかもよく分からない。
「そんなにたくさんは持って帰れないよ」
まだ五十嵐の顔はにやけている、笑うのを我慢している顔だ。
「ま、まあ無理にとは言わないよ。五十嵐だって急に誘われても困るだろうし、やっぱりいきなり過ぎだったな、うん。まあ俺は基本暇だからいつでも」
「じゃあちょっとだけお邪魔しようかな」
「侑とか明日菜とかもしょっちゅう俺んちにいるし、改めてその時にでも……、へ?」
「ハーブティー、飲んでみたいし」
意外な急展開に頭がついていかない。
「え?ほんとに来るの?」
「……ごめんなさい、迷惑だったら私」
俺は慌てて否定する。
「ち、違う違う、迷惑なはずないじゃん!五十嵐を呼べて嬉しいよ!」
「よかった。じゃあ、やっぱりお邪魔しよっと」
おっしゃあ、第一関門突破!
「男の子の部屋に行くのって初めてだけど、安心だな。何もしないらしいから」
五十嵐がいたずらっぽくチョロっと舌を出す。
「……い、五十嵐、もうその話は忘れてくれ」
五十嵐のクスクス笑いは、しばらく経っても止まらなかった。