第四歩
ギリギリ東京都内のこの町を、夕暮れがオレンジキャンディ色に染める。
いつも通りの小さくて穏やかな商店街だ。
明日菜と二人で隣同士の家まで、学校から徒歩五分の道のり。
「ちょっと悪いけどスーパー寄ってもいい? パスタの具を買っていきたい」
「美味しいもの作ってくれるなら。まずかったら承知しない。あと、きのこ入れたら中学の時エアギターを毎晩二時間も夜中に練習してたことバラす」
……え?
知ってたの?
エアマイクまで握って、あろうことかエアオーディエンスの割れんばかりの歓声にクールに応えている様を?
ステージから去ろうとしても鳴り止まない歓声(当然脳内リミテッド)を背に受け、「しょうがねえな、今日の客はラッキーだぜ!」と振り返りアンコールに突入するところまで丸聞こえ?
しーかーもーそれを今まで数年間黙ってたの?
え、何、そういうプレイ?
ごめん耐性ない。
全然ない。
こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの。
笑えばいいのかな、鼻水流しながらすげーブサイクな泣き笑いになるけどそれでも構わないかな?
「あの頃おばちゃんから相談されたんだ、夜中に一人で歌ったり叫んだり踊ったりしてるって。毎日私の部屋までも聞こえてたからちょっと心配になって(嘘だ)、おばちゃんと一緒にこっそりこうちゃんの部屋を覗きに行ったら……」
「だああああああわかった、もう何も言うな!」
心が開放骨折、羞恥心はとっくに破裂済みだ。
「若い時はいろいろある、お互い忘れましょう、ね、お願いします。マジで頼んます。」
心の中でエア土下座をしながら俺は言った。
「こうちゃんがそう言うなら忘れる」
かるく微笑んだ明日菜から、楽しくてしょうがないんです風味を感じる。
……今日眠れるかな、俺。
とまあそんなこんなで店内へ。
鳥肉が安かったので、チキンのハーブ焼きとキャベツとベーコンのパスタにした。
パスタに大量にキャベツを入れるので、サラダはなしでいいだろう。
食材ときれかけていた乾燥バジル(国内メーカーのものしかなかった、やはり高級スーパーのようにはいかない)を買い、二人でおれんちに帰る。