アコギな首謀者
続けて、
「姫様。生憎、獣、ヨモツのハイドを退けただけでは、ことが終わってはいないのです。」
トヨタマは、顔に真剣な表情を描き、タキリに語りかけた。
「トヨタマ、ハイドって何のことなの? それと、獣を退けたのにことが終わっていないのは、何故なの?」
タキリはおもわず現状を把握しきれず、フリーズしたパソコンのような様子でトヨタマに尋ねの言葉をかけた。
「姫様。ハイドは、かつて空の彼方よりアマツホシの地に降り立ち、麗しき楽園といわれた私たちの故郷・すばる王朝を力ずくで掌握した上、ヨモツという独裁国家をつくり、圧制をしいて民を苦しめる極悪で野蛮な獣のことをいいます。彼らは、すばるの王、すなわちあなたの父親・私の伯父様を殺し、今もなお姫様のお母様で私の伯母様を閉じ込めているのです。」
トヨタマは、神妙そうにタキリのことを見つめ、ハイドとそれにまつわる話をした。
続けて、
「姫様。ことが終わっていないというのは、獣、ハイドを統べ、このような事態を引き起こした当事者をまだ退けさせていないことをいいます。」
トヨタマは、タキリに対してまどろっこしいほど丁寧な表情で説明をした。
「トヨタマ、そういうことだったんだね。」
タキリは、頭の上にぴかっと電球の光を点灯させ、トヨタマに言葉を返した。
続けて、
「ねぇ、トヨタマ。この騒ぎを起こした人たちは、どこにいるのかな?」
タキリは、顔を三〇度ほど傾げ、首謀者のことでトヨタマに尋ね掛けた。
「姫様。当事者は、あの山の頂にいます。」
トヨタマは、ほんの一時の間、まぶたに力を入れて目を閉じ、南の方角を指差しながら、首謀者のことでタキリに答えた。
彼女の指差した先には、我こそは低い山の雄なりといわんばかりの山があった。
「あそこは、館山城のある山のてっぺんだわ。獣を操り、私たちを拉致しようとしたアコギな人があの場所にいるわけね。」
タキリは、トヨタマにうんうんと顔を頷かせて納得し、言葉を返した。
「うずうずしていては、首謀者に逃げられてしまいます。姫様、あの山の頂にいきましょう。」
トヨタマは、首謀者を捕らえようとする気持ちとそれが逃亡する焦りをにじませ、タキリに誘いかけた。
「トヨタマ、わかったわ。」
タキリもまた額に汗を流して手を強くにぎり、つばを飲み込んだ様子でトヨタマの誘いに応ずることにした。