現わし首謀者
その直後、トヨタマやタキリの二人を囲う形で風が発生した。
風は、初め、気にならない程度の弱いものであったが、次第に強さを増し、春一番並の風となった。
「きゃあ!? 城の方にいきたいけど、これじゃ無理だわ。」
非常に強い風の中、タキリは、身体を動かすことすら出来なくなり、思わず心が折れそうになった。
「姫様。ここで負けると、あなたは、汚れたヨモツの王妃にされ、すばる王朝の唯一無二の王位継承者という指導者としての権利を失います。私を含めたすばるの民のため、負けないでください。」
トヨタマは、強風の中でもそれに動じず、タキリのことを見つめながら言葉をかけた。
この言葉は、まさに、トヨタマとして、従姉の彼女を首謀者側に渡したくないという気持ちと激励の意味が込められていた。
「私は、国の王位継承者なんだ。こんなことでは、負けないわ。」
タキリは、いまにも折れそうな気持ちを忘れ去り、自分の出せる限りの力を振り絞り、上下左右に剣を振り回して風をはねのけた。
そのとき、彼女は、自らがすばるの指導者ということを自覚していた。
風をはねのけた彼女は、少し身体を動かし、トヨタマの元に赴いた。
「はっはっは。」
さて、そうしているなり、どこからともなく笑い声が付近に響いた。
その笑い声は、寒い海を漂う氷山のごとく冷たく、暗にタキリやトヨタマを罵倒にするかのように聞き取れた。
「あなたは、何者かしら? 愚弄しようものなら、すばるの王位継承者の私と従妹のトヨタマが許しません!!」
タキリは、不愉快そうに腹を立てて周囲を見まわし、声の持ち主に対して強い口調で呼びかけた。
すると、館山城の影から二人の天女が現れた。
そのうち、一人は、薄い茶色に灰色がかった着衣と羽衣などをまとい、顔を見せたくないのか、赤色の地で目の部分に縦の茶色いラインの入った仮面をかぶせていた。
その女の体つきは、親友の茜に似ていた。
二人目は、一人目と色違い、鳥のカナリヤの体と同じ色の着衣・羽衣・冠などを身にまとっていて、羽衣・冠・胸飾りの形状については、タキリ・トヨタマとも異なる円形のものをつけていた。
また、二人目は眉のあたりから目をへて口にいたる部分に黒色のものを塗っていて、瞳そのものに動きがなく、何者かに操られているようにも見えた。
一人目・二人目共に、胸元に明るく輝く翡翠の石で作られ、国章らしきものが刻まれた管・勾玉の胸飾りを身につけていた。
そして、
「あんたが、タキリなんやね。あめふりに寝返ったトヨタマと同じく、凛々しくて利口そうな奴ちゃな。」
一人目の天女は、護衛として二人目を従えてタキリたちに近付き、ふでぶてしく大阪語に似た言葉を発した。
続けて、
「うちは、クイーン。ヨモツの国王・ミタマの妃。ほんで、こいつは、下僕のナミや。」
クイーンと名乗る一人目の天女は、濃くて重いどろどろとした葛湯みたいな雰囲気を漂わせ、名前を名乗った。
「あなたが、思い出にあふれる故郷を掌握し、私や女の子のことを連れ去ろうとしたアコギな首謀者かしら?」
タキリは、首を右側に三〇度ほど傾げ、クイーンに対して尋ねかけた。
「やっぱ、利口なやっちやね。ミタマからあんたのことを拉致を頼まれたんやさかい。ついでに、この街をヨモツの拠点にしようとしたんやで。」
クイーンは、タキリのことを妖しく見つめ、思わずぞっとしたくなる口調にて語った。
「ゆるせない。あなた方のした行いは、人々を恐怖に陥れ、その上、人を拉致する非人道的なことです。私とトヨタマが成敗させてもらいます!!」
タキリは、胸の中でぐっとこらえていた怒りをその場で炸裂し、くろがねの剣に炎柱を纏わせ、トヨタマを率いてクイーンに攻撃を仕掛けようとした。