人間の姿の二人
時刻の針は、長い方が一二、短い方は二を示した。
天女のタキリ・トヨタマの二人は、身体にまとうひらひらとした羽衣を操り、館山城の鎮座する山のいただきに足をつけた。
さっそく、タキリは頭の中に浮かんだまじないを心の詞で唱えた。
その直後、自らとトヨタマの身体が目で見つめることができないほど茜色、真紅色のまばゆい光に包まれた。
光は、二分くらい輝き、やさしさあふれる母親のように彼女たちの身体を包みこんだ。
まもなく、二人を覆っていた光は晴れ上がり、姿を確認することができた。
すばる王朝の王位継承者のタキリは、ブレザーとスカートの制服を身にまとう百合子の姿となっていた。
火縄銃の使い手のトヨタマは、みかんの皮と同じ色のリボン、茶色の地のセーラー服を身に纏った姿となった。
また、彼女は、うるうるとした瞳で百合子のことを見つめていた。
「トヨタマ。私は、向こうでは、タキリと呼ばれている。この世界では、広瀬百合子って名前を持っているわ。あなたは、地球でどのような名前を持ってているの?」
百合子は、首を右側に傾げ、名前のことでトヨタマに尋ねた。
「姫様、広瀬さん。私は、この世界では、豊玉紗香と名乗っています。」
トヨタマこと豊玉紗香は、口角を下げてほほえみ、百合子に言葉を返した。
「豊玉紗香って、いうのね。それなら、人間の姿でいる時、私は、百合子、トヨタマのことは、紗香ちゃんって、呼んでもいいかな?」
百合子は、紗香の顔を伺い、呼称の提案をした。
彼女は、このとき、しっかり者らしい目つきにやさしそうな顔をしていた。
「おっしゃる通り、紗香と呼んでください。私も、人間の時の姫様のことですが、広瀬さんと呼ばせていただきます。」
紗香は、はにかんだ表情を顔という名のキャンパスに描きながら、百合子に答えていた。
名前の呼び方を決めた百合子・紗香の二人は、すぐ近くにベンチを見つけて座った。
そして、二人は、携帯電話の番号・メールアドレス・住所などを交換した。
これは、緊急事態が起きた時と定期的に連絡ができるようしたものである。