いつもの景色
百合子は、時計の針が七と一一を示す頃に館山駅を発つ内房線は千葉に向かう電車に乗った。
百合子は、クリーム色と紺色の電車(一一三系)の進行方向後ろよりの車両にいつも乗車し、三浦半島側の向かい合わせになるボックスシートに腰掛け、お姫さまのように東京湾の景色を眺めるのが毎日の楽しみであった。
車窓には、かすみ掛かった東京湾、そしてうっすらと三崎の城ヶ島・三浦半島の宮田・野比などが見え、横山大寒の描いた絵画に似た景色が広がっていた。
「今日は、曇っていて景色はいまいちだけど、それも悪くないわね。」
百合子は、物足りなそうな表情を見せつつも、雲に覆われたその東京湾の景色に感銘を受けた。
彼女の乗る電車は、通勤・通学のほか、観光に来た客の思いをのせて春の潮風が香る安房路を北上し、目的地の君津・千葉を目指してひた走っていた。