懐かしきメモリー
ちょうど、桜が満開となる季節。
潮風香り、海向かいに横浜のランドマークタワーや海ほたるが見える木更津市の浜辺ぞい。
二〇代くらいの女性が犬を連れて散歩していた。
犬を連れていた女性の名前は、広瀬百合子。
見た目はおとなしく、特筆すべき点としては、ゆるやかに肩の後ろへ伸びた色の濃い髪、二重のまぶたがくっきりとしているくらいである。
体格は小柄で、胸の膨らみだけは普通の人よりも大きかった。
「さくら、少し休もう。」
百合子は、ニコニコとした表情で言葉を発した。
犬も、彼女につかれたと顔に意思を示して百合子に近寄ってきた。
百合子は近くにベンチを見つけて座り、犬の頭をやさしく撫でてあげた。
そのとき、百合子の表情は、まるでやさしげに微笑む母親のようであった。
すると、母親に連れられた姫カットの黒髪、きらきらとした瞳の一二才くらいの少女がベンチのそばを通りかかり、犬の目前で足をとめた。
「可愛いわんちゃんだわ。お姉ちゃん、名前を教えてくれる?」
少女は、しばらく犬のことをあやしたあと、百合子に尋ねた。
「この子は、さくらっていうの。桜の花が咲くころに生まれたのにちなんで付けたの。」
百合子は、やさしそうな眼差しで少女を見つめて答えた。
「お姉ちゃん、そうなの。」
少女は、好奇心溢れた表情を見せ、百合子にいった。
「ねぇ、おねえちゃん。この子と遊んでもいいかな?」
少女は、目をきらきらと輝かせ、百合子に尋ね掛けた。
「いいわ。心ゆくまであそんであげてね。」
百合子は、少女に気さくな語り口で答えた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
少女は、百合子に喜びの気持ちを交え、言葉を返した。
続けて、少女は体を屈伸させ、師弟関係があるかのように犬と仲良く遊びはじめた。
「なんだか、この子のことを見ていると、中学生のころのことを思い出す。あのころは楽しかったわ。」
百合子は、少女が犬と遊ぶ無邪気な様子を見て、心の中に閉じ込めていた懐かしき思い出をうかべはじめた。