以来、家族で旅行することはなくなった。
 また、私も受験を控え、そんな余裕もなくなって来ていたし。
 お兄ちゃんに至っては、一浪しちゃったし。
 お父さんとお母さんたまに出かけている見たいだけど。
 ただ気になるのが、あの祠だ。
 一体何が祀られていたのか。それは今でも分からない。
 お兄ちゃんが不思議な体験をしたとかほざいていたが、どこまで本当なのか。
 でも。
 誰もいないはずの廊下が鳴り、ドアを掻きむしったと聞かされて、何となく納得した。
 供えてあったお花を祠ごと土砂に埋めたのは私とお兄ちゃんだ。
 あの祠の人(?)が何かを伝えに来たのかも知れない。もしかしたら怒っていたのかも。
 よく考えると恐怖体験そのものだが、私は寝ていたから覚えていない。
 ただ。
 最後の家族旅行にしては上出来だったと思う。
 自然の、あるがままの姿の滝。
 正直、圧倒された。本物だとも思った。
 そして、良く言えば趣のある古びた温泉宿。
 お酒を呑めなかったのは残念だけど、まぁそれは仕方がない。
 お兄ちゃんの恐怖体験(?)も、きっといい思い出になるだろうし。
 そして私は、受験が終わったら、そして希望する大学に合格したら、友人達と合格旅行に行く。
 もちろん『あの旅館』に。やり残した事があるからだ。
 友達に滝を見せてあげたいし、自販機の件もある。
 そして祠を掘り起こして、無事合格した事を報告する予定だ。
 なぜかそうしなければならない、そんな気がしたから。

 了

なぎのき
この作品の作者

なぎのき

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov141560418982436","category":["cat0005","cat0008"],"title":"\u3010\u7af6\u6f14\u3011\u8db3\u97f3\u306e\u3059\u308b\u3089\u3057\u3044\u5eca\u4e0b","copy":"\u301c\u5e74\u306b\u4e00\u56de\u306e\u5bb6\u65cf\u65c5\u884c\u3002\u5144\u306f\u4eca\u5e74\u3092\u6700\u5f8c\u306b\u3059\u308b\u3064\u3082\u308a\u3067\u7dbf\u5bc6\u306a\u8a08\u753b\u3092\u7acb\u6848\u3057\u305f\u306e\u3060\u304c\u2026\u2026\uff01","color":"lightgray"}