宴が終わった。
テーブルに並んだ料理のほとんどが消え、私たちは確かな満足感を得た。
お父さんは熱燗二本で酔い潰れ、意味不明な言葉をつぶやいている。探検の続きか、その話の続きかのどちらかだと思う。
ふと、私はお兄ちゃんが怪我をした祠のことを思い出した。
一体何が祀られていたのか。
あの朽ちかけたお花は、誰が供えたのか。
入るときは藪絡まなかったのに、お兄ちゃんが土砂に埋まった途端、その場の雰囲気が変わったような気がしたのはなぜか。
あの時。私が祠を見つけた瞬間。
時間が止まったような気がした。
あの場所は、特別な場所だったのかも知れないし、そうでもないのかも知れない。
女将さんに聞けば何か教えてくれるかも知れないけど、なぜか聞けなかった。口に出そうとすると、どうしても言葉が形を成さない。
それに、私にとっては、その後に見た滝の方が関心があった。
自然の造形はかくも見事なものだ。目を閉じ、耳を澄ませば、まだあの情景がよみがえる。
それほど強烈な印象だった。
「さて。このぐーたら亭主も潰れたことだし、寝る準備よ」
お母さんが立ち上がった。
お父さんはぐたぐたと何かを呟いていたが、またしても置物のように部屋の隅に寄せられた。
私とお母さんは押入れから人数分の布団を引っ張りだし、テキパキと、四人分の寝床が準備した。
女将さんの出番は、この母の前では無きに等しいらしい。
そろそろかな? と様子を伺いに来た女将さんの表情を見れば分かる。この客は放っておいても良い。
女将さんは廊下に積まれた空の皿やら食器をトレイに載せ、廊下をきしませて戻っていった。
「崇は動かせないからね。それに怪我人を一人で放っておく訳にはいかないでしょう?」
忙しく布団を敷き直しながら、母親らしいセリフを吐く母だった。
*
さすがに疲れがどっと来た。
温泉に浸かり、食事をし、もう休んでいいよと体が訴えている。
――くっ。自販機の禁断の果実が……。
頭ではをそれを実行しようとするのだが、体がもう勝手に動いている。
パジャマに着替え、顔を洗い、葉を磨き。
布団に潜り込むと、もう逆らえない。睡魔ってヤツは厄介だわ。
まぁ良いや。お酒は二十歳になってから。良い子は眠れる時に眠るのだ。
私は瞬時に意識を放棄し、まどろみの中へ沈んでいった。
*
朝になり、皆が起きていない事を確認すると、抜き足差し足で自販機に向かった。単純に水を買おうとしたのだ。
そこで気がついた。
来た時はあったはずのお酒類が一切消えていた。
やっぱりお母さんが手を打っていたのだ。
――くそう。
ちょっと悔しいが、お母さんが未成年の愚行を見過ごすはずがない。
そそくさと水だけ買って部屋に戻る私だった。
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