「にゃにゃにゃあ」
猫のような鳴き声もどんどん大きくなっていくようだ。
「宇宙人さん。お願い!! スピードを落として。ぶつかったら私達死んじゃうんです」
彼女はマイクに向かって必死に訴えかかっているか、今度ばかりは誠意が通じる様子がない。
いや、むしろスピードが上がったみたいだ。
このまま俺達はここで死ぬのか?
考えろ……何か方法があるはずだ。
宇宙服で脱出……いやだめだ。
推進力のない宇宙服で外へ出ても逃げ切れない。
「こうなったら」
俺はコンソールを操作した。
「ちょっと!! 何をするんです!?」
俺がやろうとしたことに気が付いたのか、彼女は背後から俺を羽交い絞めにしてきた。
「放せ!! こうなったら、一か八かレーザーで奴を吹っ飛ばす」
「やめて!! 宇宙戦争にでもなったらどうするの!!」
「じゃあこのまま、みすみす奴に殺されていいのか!!」
「ええっと……死にたくないです」
「そうだろう」
「でも、私は宇宙戦争を止めるために来たんです。そのために殉職するなら本望です」
「いや、まて!! 君はそれでいいかもしれないが俺は嫌だぞ」
軽い衝撃が伝わってきたのはその時だった。
「なんだ?」
レーダーを見るとすでに奴はこの衛星とぶつかった事になっている。
どうなっているんだ?
「着陸している?」
彼女が呟くようにぼそっと言った。
「着陸? 何を言ってるんだ?」
「微かだけど、重力があるわ」
言われて初めて気が付いた。
今まで俺達は無重力状態でふわふわ浮いていたのだが、いつの間にか俺は床に足をつけていた。重力計を見ると〇・〇一Gを示している。
どうやら、衛星ごと奴の表面に着陸したようだ。レーダーの記録を見ると奴は衝突の寸前に急激に速度を落としている。
計算してみると、千G近い加速度がかかったはずだ。普通なら中の乗員は煎餅になっている。それだけのGを中和できるだけの慣性制御機能を持っているというのか?
それにしても、奴ら何のつもりだろう?
俺達をどうとでもできるはずなのにすぐに殺す気はないようだ。こっちへ乗り込んでくるつもりだろうか?
「みゃうみゃう」
スピーカーから甘えるような声が流れる。
しばしの間、奴は乗り込んでくる様子もなく、ただ衛星から離れてはまたぶつかるという行動を繰り返していた。
しばらくすると奴は衛星から大きく離れ、レーザー砲の正面にぴたりと停止した。
「これは……まさか?」
彼女はしばし考え込む。
「撃って」
「え? いいのか?」
「大丈夫です。戦争にはなりません」
俺は言われた通りレーザーを撃った。
そして……
奴は満足して帰って行った。
「じゃあ、あいつはレーザーを食っていたというのか?」
「ええ。そういう宇宙生物(クリーチャー)だったんです。宇宙船ではなくて」
「しかし、さっき体当たりしてきたぞ」
「あれは攻撃ではありません。レーザーをねだって、じゃれてたんです」
「なんで、分かった?」
「似てたんですよ。私が可愛がっている猫ちゃんと。餌をねだって足にすり寄ってくるときと似てるなと思って」
「猫飼ってるのか?」
「飼ってません。公園の野良猫ちゃんを可愛がってるんです」
「おいおい。ダメだろ。野良猫を餌付けしたりしちゃ」
「野良宇宙生物(クリーチャー)を餌付けした人に言われたくありません」
「俺は別に餌付けしたわけじゃない」
「結果的にやったも同じことでしょ。あの子すっかりあなたに……というかこの衛星に懐いてしまったようですよ」
「う……まあ、とにかく、これで問題は解決したわけだな」
「とんでもない。大変なのはこれからですよ」
事実そうなった。
数日後、奴はまたやってきたのだ。数匹の子供を連れて。
ここへ、来れば餌(レーザー)がもらえると覚えてしまったようだ。
了
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