必殺のエルボー
急いで帰宅すると、彼女はすでに合鍵を使って部屋に入り調理中だった。鍋からは形容し難い臭いもとい匂いが漂う。本日の彼女の訪問は『仲直りお食事会』という名目である。
やがて料理が完成し、テーブルに並べられた。
「さあ、召し上がれっ」
僕は指示通りにスプーンを動かし、得体の知れぬ黒い汁をすすった。ウヴッ。
「どう?」
「……美味しいよ」
頓死しそうになる我が身を叱咤し、僕は答えた。
すると彼女の顔に笑顔が広がった。
「よかったーっ! 本当なのね!」
「モチロン」
棒読みで口にしたが、彼女の眼前に表示されているホロウインドウには『真』と示されているはず。
断っておくが、料理は不味い。このときのために僕はアレを開発したのだ。
僕が堂々と嘘をつける裏には、僕が開発したアプリ『ステルス・ライ』の暗躍が挙げられる。『ライ・ディスカバリー』による嘘発見の裏をかくモノで、嘘をついても『真』と表示されるのだ。
どうやら開発に成功したようだ。彼女の笑顔がそれを証明している。
「……あのね、この前はごめんね。きつく言い過ぎた」
「イヤ、キニシテナイヨ」
きつく締めすぎた、の間違いでは?
「……好きだよ」
「僕もだよ」
「……ちょっと、なんでここで嘘つくのよっ!」
「え――」
「『嘘』って出てんだけど!」
「なんで!?」
ここにきて僕は『ステルス・ライ』のバグに気づいた。原因は定かではないが、『嘘』を『真』にできるが、『真』は『嘘』になってしまうらしい。まさかの逆転現象に、僕は頭をかかえた。
「ち、違うんだよ。話を聞い――」
次の瞬間、彼女のエルボーが僕の顔面にめり込んだのだった。