嘘のない世界
Cリングは見た目は腕輪なのだが、その実それは小型の情報端末である。装着すると視界にホロウインドウを始めとする操作パネルがいくつも表示され、視線と意識を傾けるだけで操作できる。今や誰もが腕にはめている。僕も、彼女も。
旧来のPCなどと同様に、Cリングも様々なアプリが開発された。中でも『ライ・ディスカバリー』は、インストールしていない人間などいないと言えるほどに普及した。
それはいわば嘘発見器。相手の声音、声色、声帯の震え方を測定し『嘘』か『真』かの判断を下す。
自分の言葉の真偽が計られてばかりではと購入者は後を絶たず、もはや嘘をつけない、正直者ばかりの環境と化した。
政治家は発した言葉の九割超が嘘八百だと判明、営業マンは接待でお世辞の一つも言えず、子供を持つ親は子供に『サンタさんっているの?』と聞かれ『いない』と断言せざるおえなくなった。
まるで核武装をする国々のように、人々は『ライ・ディスカバリー』を買った。
そして僕は立ち上がった。
もうこれ以上『ライ・ディスカバリー』の思うようにはさせない。何より、アキレス腱固めなんてもう二度とごめんなのだ。