第一章 転校生と眼鏡と小さな侍 1

ここはごく普通の中学校。今日からこの学校は新学期だ。

廊下を金髪の少年が走っていた。女の子の何人かが彼を見て悲鳴をあげる。少年は俗に言うイケメンだった。

「あ、修君だ!おはよう!」

「おはよう!」

女の子達に修(シュウ)と呼ばれていた少年は3ーAと書かれている教室のドアを思い切り開けて、こう叫んだ。

「俊輔ー!」

クラス中の視線が修に注がれる。だが、彼は全く気にせずに一人の少年に近寄った。

本を読んでいたその少年はゆっくりと顔を上げた。

「朝から騒がしいですね」

そう言った少年は、驚くほど整った顔立ちをしていた。

「また一緒のクラスだな、俊輔!」

修は嬉しそうに笑ってそう言った。それに対し、俊輔(シュンスケ)と呼ばれた少年はわざとらしくため息をついた。

「また一年間うるさくなりますね」

俊輔のその反応に修は少しムスッとした。が、すぐにまた笑顔になった。

「上機嫌ですね、市川」

修は俊輔の前の席に座ると嬉しそうに喋り出した。

「今日さ、転入生が来るらしいぜ!」

「そうですか」

「で、それがとんでもなく美少女らしいんだよ!」

嬉しそうに言う修に対して俊輔はどうでもよさそうにそうですか、とだけ返した。

「反応薄いな」

「俺には男でも女でも美少女でも関係ありませんから」

俊輔はにっこり笑ってそう返した。

「お前ホントにムカつくヤツだな!モテるくせに!」

「さあ?なんのことでしょう」

「この間だってお前、隣のクラスの本間さんに告られてただろ?」

「はい」

「さらりと言うところが更にムカつく!」

今にも暴れ出しそうな修にため息をつくと俊輔は目線を本に戻した。

「自覚はありますが、俺には関係ありません」

「なんでお前みたいなヤツがモテるんだ!」

その時、さっきまで笑顔だった俊輔の表情が一瞬だけ変わった。

「本当にわかりませんね。俺みたいなやつを好きになるなんて」

「俊、輔?」

そしてまたにっこり笑う俊輔。さっきまでの曇った表情は消えていた。

「なんでもありませんよ」

「そうか。あれ?今何話してたんだっけ」

「そんなだからモテないんですよ」

「うっせーよ!」

また暴れそうな修に呆れながら俊輔はしれっとしたまま言った。

「話していた話題は俺がモテる理由です」

「うわ!腹立つ!まあ確かにお前は性格は悪いけど、見た目よし頭よし運動神経よしって嫌なキャラだもんな。嫌いだ!お前なんか!」

プイッと横を向いた修に俊輔はわざとらしくため息をついた。

「みんなそんなものなんですかね。俺は市川のほうが断然いいと思うんですが」

「悪い。前言撤回する。お前大好きだ」

単純な修に俊輔は少しだけ楽しそうに笑った。

ガラッとドアが開いて教師が入ってきた。そしてその後ろには少女がいた。

「うっわ!ホントに美少女じゃん!な、俊輔」

「そうですね」

「反応つまんない!」

相変わらず本を読みながら修という少年に返す俊輔。

確かに美しい少女だった。さらりと流れる金色の長い髪。美しい青い瞳。教室中の男子はみんな彼女にみとれていた。ただし、俊輔以外は。

教師が軽く話をして、隣の少女に声を掛けた。

「綾刀麗羅(リョウトウレイラ)です。よろしくお願いします」

少女は無表情のままそれだけ言った。

「麗羅ちゃんかぁ。ホント可愛いよなぁ」

「そうですね」

「髪さらっさらじゃん」

「そうですね」

「俊輔の隣空いてるってことは麗羅ちゃんと隣かよ!いいなー!」

「そうですね」

「つまんないぞ!俊輔!」

二人が話していると、麗羅と名乗った少女が俊輔の隣へと歩いてきた。

「よろしくお願いします。えっと、」

「笹間俊輔です」

「俺、市川修ね!」

「じゃあ笹間さんに市川さんですね。よろしくお願いします」

そう言って麗羅はペコリと頭を下げた。

「可愛い転校生も来て、これからおもしろくなりそうだな!」

「そうですね」

「また同じ反応かよ!」

「いえ、おもしろくなりそうというところには心から同意してますよ」

「あれれ、他は~?俊輔!」

叫んでいる修を無視しながら俊輔は本を置いて、麗羅のほうを向いた。

「よろしくお願いしますね、綾刀さん」

俊輔はそう言ってにっこりと笑った。

七条雫
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