第一章 転校生と眼鏡と小さな侍 2
麗羅は深くため息をついた。
「お疲れ!麗羅ちゃん」
「疲れました。こういうことに慣れていないので」
「あまり経験することではありませんからね」
転校生相手にはよくある、質問責め。麗羅も例外ではなかった。先ほど俊輔と修の助け船もあり、ようやく落ち着いたのだった。
「でも、少しクラスに慣れたでしょう?」
「はい。なんとなく名前と顔も一致するように」
「へぇ。覚え早いね!」
「ありがとうございます」
二人が話していると俊輔が立ち上がった。
「あ、帰んのか?」
「ええ」
「俺も俺も!」
「俺たちは帰りますが、綾刀さんはどうしますか?」
「え?」
「麗羅ちゃんも一緒に帰ろうよ!」
麗羅は俊輔と修を驚いたような顔で見た。
「い、いいんですか?」
「もちろん!」
「構いませんよ」
二人がそう言ったのを聞くと麗羅は立ち上がった。
「ありがとうございます」
表情はあまり変わらないが、声が少し嬉しそうだった。
「じゃあ行こうぜ」
学校を出て、しばらくは三人で雑談をしながら歩いた。数分後、分かれ道に辿り着いた。
「綾刀さんはどっちですか?」
「私は右です」
「では、俺と一緒ですね」
「ズルイぞ!俊輔!」
「ですが今日は左なんです」
「遊ぶ約束してるもんな!麗羅ちゃんも来る?」
修がそう言うと麗羅はまた驚いていた。だが、すぐに首を横に振った。
「嬉しいんですけど、今日は疲れてしまって」
「それもそうですね。では、ここでお別れですか。また明日会いましょう」
「また明日ね!麗羅ちゃん!」
「はい。また明日」
麗羅は右へ、俊輔と修は左へと進んだ。
右へ進んだ麗羅が、立ち止まって空を見上げて小さな声で呟いた。
「私は、馴れ合ってはならないのに。彼を、斬らなくてはいけないのに」
その声は風に消され、誰の耳にも届かなかった。