第一章 夢見る少女と怪盗見習い 10
「見るな、俺を見るな!」
スティーブは完全に冷静さを失っていた。周りもスティーブを見ている。
「大丈夫。大丈夫だよ、スティーブ。別にティファは君を軽蔑したりしない」
ピーターが声をかけるが、スティーブは必死に布をまとう。その様子は慌てているだとか取り乱しているのとは違う。怯えているという表現がピッタリだ。ティファは驚いてただ二人を見ていた。
「なんなんだアイツは」
「今の見た!?あの肌の色!」
周りの人々が騒ぎ出す。そんな中、ようやくスティーブは落ち着きを取り戻した。
「すまない、驚かせたな」
ティファは静かに首を横に振った。
「大丈夫よ。気にしてないわ」
「うーん、ちょっとこの空気だと居にくいね。宿に戻ろうか」
「すまない、リーダー」
「何言ってるのさ。スティーブは何一つ悪くないよ」
そう言ってピーターはニッコリ笑った。
「さあ、行くよ」
三人が歩き出すと周りにいた人々は騒ぎ出した。宿に戻るにはこの人混みに寄らなければならないのだ。
「ち、近寄るな!」
スティーブが近寄った瞬間、一人の男がそう言って石を投げた。スティーブには当たらなかったが、危ないところだった。
「お前!」
ピーターがその男に近寄ろうとしたのを、スティーブが腕を掴んで止める。
しかし、次の瞬間その場に乾いた音が響いた。ティファが男の頬を殴ったのだ。ピーターもスティーブも男も突然のことに状況が理解出来ない。
「あなた、最低だわ。石を人に向かって投げるだなんて、普通子供でもやらないわよ。青い肌の何がいけないわけ?とても綺麗じゃない。自分と違うものを受け入れられないなんて、つまらない人ね」
ティファにそう言われると男は情けないことに何も言い返せなくなった。
「さあ、行きましょ。そしてこんな町、早く出ましょう」
そう言って早足でティファは歩き出す。沈黙を破るようにピーターは大声で笑いだした。
「ナイスだよ、ティファ!よくやったよ!」
ピーターはスティーブの腕を引っ張ると、楽しそうにティファを追いかけた。
「な?彼女は平気だろ?」
スティーブは信じられないというようにティファを見つめた。
「もう、せっかく楽しかったのに台無しだわ!」
「すまない」
「どうしてあなたが謝るのよ!あの男のせいよ。本当に信じられないわ!」
スティーブは未だに驚いている。そんな二人を見てピーターは笑う。
「ティファは本当によくやってくれたよ。ティファがやらなかったら僕がやってたね」
「そもそもどうして隠さなきゃならないのかわからないわ。素敵なのに」
「え?」
ティファの発言にスティーブが間抜けな声をあげた。ティファもハッとして赤くなる。
「その……だって、そう思ったんだもの!青い肌!」
うろたえる二人にピーターは大声をあげて笑う。
「ピーター!笑い過ぎよ!」
「全くだ。黙れ」
「ごめんごめん!二人の反応が可愛くて!」
「もう!」
拗ねたティファをなだめるようにしながら、ピーターは話を変える。
「さて。ちょうどいいし、もうサーカスに向かおうか。今から行けば明日には着くし」
「早く行きましょう!楽しみだわ!」
「その前に一ついいか?」
「何かしら?スティーブ」
「さっき言いかけていたんだが、スノーは俺の姉だ」
「そうなの。そこまで驚かないわ。あなたもとても綺麗だったものね。納得だわ」
ティファが微笑むと、スティーブは顔を背けた。
「ありがとう」
それはティファにギリギリ届くぐらいの声だった。ティファは再び嬉しそうに微笑んだ。