第一章 夢見る少女と怪盗見習い 9
現在、この世界の住人なら誰もが耳にしたことのある名前がある。
一つ目は大怪盗ムーンシャドウ。そして二つ目はサーカス団、ソル・シャドウだ。
団員には特異な外見を持つ者も多いのだが、決してそれを蔑むような内容ではない。この世界で最も観客を魅了するサーカスと言われている。
尚且つ貧しい人々相手に無料で公演をし、職のない者を雑用に雇ったりもしている。
あちこちを旅していて、各国の王もから支援まで受けているような団体だ。
「彼らが、大怪盗と繋がっているですって?」
「そうだよ。リムル団長は僕らの仲間だ」
「すごい……」
そう呟くとティファは突然ピーターの両手を掴んだ。
「すごい!すごいわ!私、あなたについてきて正しかった!」
「あ、ありがとう」
ピーターは少し勢いに押されながら笑った。
「私、ずっとあのサーカスに行ってみたかったの!彼らのことなら沢山知ってるわ!」
嬉しそうにはしゃぐティファに、ピーターは微笑む。
「目的地も決まったんだ。そろそろこの町を見て回らないか?日が暮れるぞ」
「あ、そ、そうね」
スティーブの声にティファは我に返り、子供のようにはしゃいでしまったことを恥じて俯いた。
「じゃあ、見て回りつつサーカスの話をしようか。まだまだ話したそうだし」
その言葉にティファは驚く。
「よ、よくわかったわね」
「顔に出てたよ」
ピーターはニヤリと笑う。
「もう、あなた意地悪ね」
「あはは!ティファが可愛い反応をするからいけないんだよ!スティーブもからかうと反応おもしろいけどね」
ピーターがニヤリと笑い、スティーブを見る。
「あら、そうなの?」
ティファもクスリと笑い、スティーブに視線を向ける。
「うるさいぞ、リーダー」
スティーブは煩わしそうに二人の視線を受け流した。
「ソル・シャドウってすごいわよね」
ティファは突然ソル・シャドウの話を始めた。
三人は店を見て回っていた。特に何かを買うわけでもないが、ショッピングを体験したことのないティファは何でも楽しそうだった。
「有名なのって団長さんだけじゃないのよね。人魚のルピアさんも知ってるわ」
「ああ、アイツか」
出てきた名前にスティーブが嫌そうな声を上げた。
「なんだか嫌そうね」
「嫌なわけじゃない。良いヤツだが、苦手なんだ」
「スティーブは積極的な女の子が苦手だからね」
「なるほどね。蛇男のミシェルさんも知り合いかしら」
「アイツとは長い付き合いだ」
「ミシェルは僕らと仲間だったこともあるんだ」
「本当に、あのソル・シャドウのメンバーと親しいのね」
ティファはまだ信じられない様子だった。
そんな会話をしながら歩いていると、人だかりが見えた。
「すみません、あっちには何があるんですか?」
「『風の丘』と呼ばれる場所だよ。気持ち良いから行ってみるといいよ」
「ありがとうございます」
親切に答えてくれたおばさんに礼を告げ、三人は歩く。
「でもなんと言っても踊り子のスノーさんが一番素敵だわ」
「スノー、か」
「ええ。写真で見たことがあるの。あんなに綺麗な人がこの世界にいるなんて!人間離れした青い肌も綺麗だったわ」
ティファのその言葉に、スティーブが目を見開く。それには気付かずに二人はたどり着いた丘の感想を述べ始めた。
「ここかな。風が強いね」
「風車があるのね。素敵だわ」
「……ティファ、俺はそのスノーと」
スティーブが何かを言いかけた時、一際強い風が吹いた。
「え?」
ティファが驚いて目を見開く。
「見るな!見ないでくれ!」
青い肌をした青年が、スティーブと同じ声で叫んだ。