1話 02
「そんなに悔しいのなら、ゲームに参加すればいいじゃねーかよ」
「キューブ、僕は参加しないって言っただろ。ほっといてくれよ」
僕の前に現れた謎の黒い生命体ーーキューブ。
最初、数学の授業中に現れたときは心底驚いたが、今となっては家の郵便受けに毎月入っている通信教育のチラシと大差のない存在となっている。
僕以外の人間には見えないことが唯一の救いだが、こんな所を他人に見られてしまったら僕は頭のおかしい人間だと思われてしまうに決まっている。
「ゲームに参加して最後まで勝ち残れば、どんな願いも一つだけ叶えられるんだぜ?」
「こんな僕が最後まで勝ち残れるわけないじゃないか。あんなパンチ一発かわせない奴が勝ち残れると思うのか?」
「それもそーだな。まぁ、気が変わったらいつでも呼びな」
キューブとの会話が終わり、僕は深く深呼吸する。
「あいつの殴る拳は見えていた。だけど、僕の体じゃかわすことなんかできないんだよ……」
僕はそんな捨て台詞を吐くと、また教室という監獄に戻ることにした。
教室に戻ると、志乃が手を振って僕を呼んでいた。
「直くん遅かったね。佐々木達は先に戻ってきてたのにどうしたの?」
「うん、ちょっとね。いろいろあったんだよ……」
僕は志乃から視線を逸らす。
志乃に言えるわけがないーーついさっきまで佐々木達にいじめられて、キューブと話していたなんて。
視線を元に戻すと僕の前には志乃がいて、両拳を僕の頬に当てると左右に回転させ、僕の頬に食い込ませてきた。
「そんな顔だと、直くんのイケメンフェイスが台無しだぞー」
「しの。ちょっどやべでよー」
教室から笑いが起こる。
教室での僕は志乃のおかけでいじめられることもなく、表向きから見れば仲睦まじい生徒の中の一人なんだろう。
だから、先生だって僕が佐々木達にいじめられていることを知らないだろう。
「直くん。私のお母さんがサンドイッチ作りすぎちゃってさ、一緒に食べようよ」
「志乃。気持ちは嬉しいんだけど、お腹いっぱいだからもう食べれないよ」
「そっか、それなら手作り料理作りに行っちゃおうかな!」
「あははは。それは勘弁してほしいな」
僕は笑みを浮かべながら自分の席に着いて、空腹を必死に耐えることにした。
ーー佐々木達と一緒に飯なんか食いたくないよ。
志乃に真実を伝えられたら、僕はどんなに楽になれるだろうか。