1話 03
午後の授業を終えると、学校から仮釈放という形で一時的に自宅に帰ることができる。
大多数の生徒が部活という強制労働をやる中、僕は毎日一人で自宅に帰宅している。
「あいつ、部活がなくていいよなー」
なんて、周りからの嫌味にもなれた僕は一人下校しようと教科書が大量に入った学生鞄を背負い、いつも通り正門を出ようとするとーーーー
「直くん! 今日は一緒に帰らない?」
「それはいいけど、部活はどうしたの?」
何かを隠すような素振りを見せると、サボっちゃったと苦笑いをしたので、僕は少し口角を上げて、いいよと答えた。
志乃と一緒に帰るのは何年ぶりだろうか。
いっそ、昔の話でもして時をやり過ごそうか。
「小学校のときはよく一緒に帰ってたよね」
志乃も同じことを考えていたのか、僕が話を振る前にその話題を持ち出してきた。
「本当だね、志乃は今でもランドセルが似合いそうだけど」
「バカにしてるの?! 直くんはいつバカみたいにサッカーのーーごめんね、私のせいで……」
「いいよ、志乃。気にしてないからさ、志乃を助けられたんだから、僕はそれで十分だよ」
少しの沈黙の後にーーー
「直くんに話したいことがあるの」
きっと、昼休みに言っていた手作り料理のことだろうと思い、僕は笑顔でいいよと答えた。
「ありがとう。あのね、実は私ーー佐々木くんに、この前“告白”されたの」
「へっ?」
「それでね、私って今まで告白されたことがなくて嬉しかったんだ」
ーー嬉しかったんだ。
その言葉が僕の心をえぐるのにどれだけ適した凶器だろうか、考えるまでもない。
ーー志乃を悲しませたくはないから、志乃の前ではいじめないでほしい。
壊れそうな心を唯一支えていた志乃を悲しませたくないという切な願いさえ、
僕が勝手に勘違いして、バカみたいに耐えて、佐々木の罠にまんまと嵌ってしまい、惨めな思いをしなくてもよかったのに、
そんなくだらない願いを僕は僕は…………。
夢中になって僕は走る。肺に爆弾を抱えていることなんか忘れて夢中で走った。
ーー僕は何の為に生きてきた。
ーー何を望みに生きていく。
走っている僕の頭にはその言葉が何回も何回も反復し、増強し、鋭い短剣で体を裂かれて、痛みだけが続くような感覚。
けれど、自然とそれが苦痛ではなかった。
なぜなら、
「ゲームで勝って願いを叶えればいいだけじゃないか」
ーー至極簡単なことじゃないか。
僕の都合のいいように世界を作り替えれば、あの佐々木がいない世界や僕が中心とした世界だって作れるんだ。
そして、足を止めた僕の前にキューブは現れーーーー
「つまり、参加ってことでいーのか?」
「あぁ。それでいい。僕は“最後の一人”になるまで戦うよ」
僕は願いを叶える戦いに参加することを決意した。