第三部
フートとその父は、知り合いの「おじさん」によって、ある島にたどりついた。船内で身支度を整えたフート達は、島に上陸する。
島は、船着きのための岸がある以外、ほとんどが森で埋め尽くされていた。フート達はそんな森を前にして、しばらく立ち止まっていた。
「やはり、まだ森は色あせていないか……」
「だから言ったでしょう親っさん。引き返すなら、今ですよ」
「いいや。船に乗ったときから覚悟は変わらん」
そう言ったフートの父は、島のほとんどを占めている森へ、足を踏み入れる。
「全く。頑ななところは変わってないんだから親っさんは」
と、言ってフートの父に続いたおじさんに、フートも慌ててついて行く。
「この森、ちょっとだけ、じめじめしてるかも――? あの頑丈そうな石の建物はなんだろう?」
フートは、森の中に突然現れた、前方だけ抜かれた石工の建物を目の前にした。
「おいフート。早く来い」
戸惑っているうちにフートは、建物内にいる父に呼ばれたため、遠慮がちでありながらも、石工の建物の中に入っていった。建物には、左方にソファ、右方に受付台。父とおじさんは、受付台を仕切りに立つ、受付嬢と話をしていた。
「三名で、島の森の中に入られるのですね。目的は?」
「「ブラックトリフ」の採取だ」
「ブラックトリフですか? まだ時期は早いですよ。それに「天敵」だって――」
「心配いらないって! 親っさんは、資源保護組織・探索科で主席だったベテランですよ!」
「では、その証明書を見せていただけませんか?」
「――まさか! この顔つきと持っている武器で分からないのか?!」
「やめろ。仕方のないことだ。ここの天敵は一筋縄ではいかないやつだ。証明書がないと入れないのが普通……」
こう呟きつつ、父は懐から一つ、証明書というものを取り出した。手のひら程の証明書は、表も裏も、水晶のような輝きをみせていた。これを手に取っている受付嬢は目を見開き、思わず口を手で覆っていた。
「この証明書は、本物の水晶級! ――初めて拝見いたしました!」
「そう! 親っさんは、原石級、銅級、銀級、金級より、白金級よりもすごい水晶級なんだぞ!」
「大変失礼いたしました。実はこの時期になると、組織の等級を偽ってまで進もうとする方がいらっしゃいますので、そのため、証明書提示が義務づけられているのです」
「いいんだ。こちらこそ、この仕組みを知らない「こいつ」が、君に失礼な言葉をかけてしまった。すまない」
こう言って、おじさんをしっかりにらみつける父に、とんでもないです! と答えた受付嬢は、必要な書類を三人に書かせそれから、三人を森の先へ案内した。
「この森、まだ蒸し暑いですよ親っさん」
「元から湿気が多い島だからなあ。しかも時期が早い」
「皆さん、水分補給はお忘れなきよう……」
「お嬢さんの言う通りだね。ありがとう」
受付嬢の言葉にこう答えたフートの父は、自慢の武器を肩に担ぎ、ゆうゆうと歩いていた。それを後ろで見ていたフートが、父に向かってそっと口を開く。
「父さん?」
「何だ、フート」
「父さん、って、何者なの?」
「何者って――」とつぶやいた父は、ふ、と、小さく笑い、頭をかく。
「私は資源保護組織の一員というだけだ。大したものじゃないよ」
「いいや! 親っさんは大した人だよ! 世界の資源を守る組織を、長い間引っ張ってきたんだから!」
「――そうだよ。父さん、さっきから言っている「組織」って、一体何なの?」
「そう言われても、最近はいろんなことをやっているみたいだからなあ――」
「あの、皆さん。お話の間をさくようですが、私のご案内はここまでです」
ふと、こう切り出した受付嬢は、三人に森の先を見せた。森の先はさらに木々が生い茂り、この島を照らしていたはずの日の光が、だいぶ少なくなっている。
「こちらから先は、皆さんの自己責任のもとで探索するようお願いいたします。森を出る際、こちらの玉を上へ放り投げていただければ、あちらの出入口に戻ることが出来ますので、ぜひ活用してください」
「ありがとう。――ここから先は二人とも、私から離れるな。離れるなら、私に一言声をかけること。私の目につく位置までにすること。いいな」
「――はーい」
「もちろんですよ親っさん!」
「それでは皆さん、幸運を」
こうして、湿気が強い森の中を、三人で進むことになったのだった。
(後編に続く)