帰り道、去り際に男性が言った言葉を思い出した。
――これで新たな職について頑張っていけそうです。
それは非常に難しい。
このシステム過度の利用は危険だ。
特に先ほどの男性のように失意のどん底にいるような人間は夢に入り浸り、夢の中で死んでいくことになる。
それを防ぐために夢の再生時間は1回につき2時間と設定した。
さらに、再生回数の上限を30回と設定し、上限に達するとデータが消える。
このシステムにより、DEシステムのユーザが廃人化するということはほぼない。
それに、データが使えなくなった場合、リピータの獲得にもつながる。こういう人たちからは安定して収入が見込める。
ただし、再生が終了したにもかかわらず夢を見続ける可能性もある。一種の中毒症状で現実世界に幻覚として夢の世界が生まれる。
こうなれば手のつけようがなくなる。施設行きか、あるいは犯罪を犯して刑務所。最悪の場合突発的な自殺につながる。
適度な使用はストレスの発散に繋がり健康に効果的だが、過度の使用は逆に精神を害すことになる。
家に帰り着き、メールチェックをすると、一通の取引依頼メールが届いていた。
『ホームページを見て連絡しました。契約がしたいです。返信お願いします』
とだけ書かれていた。
顧客の誘いは断らない。
パソコンに向かってひたすらとコードを書く。
莫大な利益が発生する仕事ではないが、文字列ひとつで世界を作れるのだ。
俺は世界の創造主。神となる。
その魅力は何にも変えられない。
俺は、詳細を求めるメールを送信し、眠りについた。

翌日。
朝起きてすぐに、日課であるメールチェックを行う。
すると、新しい顧客から返信があった。
メールによると顧客は、牧瀬優奈、23歳女性。
求めている夢は『死』。
夢で死を求めるとは考えてもいなかった。
彼女は問題が起こるたびに辛くなり、現実逃避のためにリストカットをやっている。
体を傷つけたくはないが、リストカットがやめられない。それがさらなる悩みとなり自傷行為はエスカレートしていった。
こんなボロボロの体じゃ彼氏も出来ない。
だから、死の夢を買おうと思ったらしい。
変わっている顧客だ。
いや、この話を信じて依頼をしてくる人自体、変わっているのだ。
そんな依頼でも柔軟に対応する。
ただ、作った以上は品質管理もしっかりとしなくてはならない。
俺も死の夢を見なければならないのだ。
正直いやだが、俺も仕事としてやっている。えり好みは出来ない。
「うおえ……」
このシステムは、音声を通して五感全てに働きかけ夢を見るため、リアルな死の状況を味わえる。
それを確かめるのは非常に辛い。
『死の夢』の製作が終了したため顧客にメールを送る。
すると、すぐに返信が来た。
『ホントですか!?今すぐ受け取りたいです!』
現在22時ジャスト。
時間はまだ問題ない。
『分かりました。それでは0時にゲストのトイレ付近の席でお会いしましょう』
最初の顧客、桑染介一と契約をした場所と同じだ。
そして、彼女は同じ席に座っていた。
「初めまして、神語です」
「あ、あなたが!」
俺に助けを求めている視線。
包帯で覆い尽くされ、肌が見えない手。まるで大やけどを負ったかのようだ。
「落ち着いてください」
俺は彼女の対面に座り、リュックから契約書を取り出した。
契約の内容を説明し、5分間の試用をさせて、正式に契約を行った。
「ありがとうございます!」
彼女はうれしそうに店から出て行く。
彼女はDEシステムでリストカットをやめられるのだろうか。それは彼女次第である。
夢と希望。これらを“本当に”与える仕事は他にない。
翌昼、俺は眠たい目を無理やりこじ開けられた。
目を覚まし、重たい体をPCに向かわせた。
そして、ブラウザのトップに設定してある検索サイトのニュースをチェックしていたときのことだ。
『20代女性、原因不明の死』
本日午前11時頃、県内のアパートで牧瀬優奈さん(23)女性の遺体が発見された。
一向に起きてこない牧瀬さんを心配したルームメイトが部屋に入ったところ、部屋で倒れているのを発見。


現在、県警は死因を調査中
「牧瀬……優奈って」
俺の顧客が死んだ。
契約を交わした翌日に。原因不明の死。
俺は、人を殺したのか?

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