プロローグ2

 なんだかんだ言いながらも、この遊園地デート(仮)を一番楽しんでいるのは、この俺なのかもしれない。

 俺たちは幼い頃から一緒に居過ぎたせいかもしれないが、志奈が側にいないと、俺という存在自体が虚構なのではないかと疑いたくなるくらいーーどうしようもなく、心の中が寂しくなるときがある。

 昔は側にいるのが当たり前で、志奈がいない世界なんて考えることさえなかった。

 けれど、俺が八歳ぐらいの頃に志奈を庇って信号無視をした車に轢かれーー病院に入院していた時期があった。

 あの時の志奈は、俺に会うたびに泣き叫んで、何度も何度も謝ってきたから、

「大丈夫だ、心配すんな!」

 なんてーーぶっきらぼうに言って、大泣きしている志奈を毎回のように追い返していたけれど、内心は毎日ビクビクしていて、寝れない夜を過ごしていた。

 ガキの頃の俺は、お化けや怪物という異形の存在を信じていた節があるーー現在進行形で信じているが、それを言ってしまうと、他の奴に腹を抱えるぐらいに笑われるので、誰にも言っていない。

 そんな俺にとってーー夜の病院は機械の音だけが規則的に動く監獄そのものだった。

 自分という存在が外の世界と隔離され、死の匂いが満ちた部屋に閉じ込められる。ただ、病気を治すという行為の為だけに。

 普段、家にいるとお化けや怪物が出てくるなんて微塵も感じなかったが、病院にそういう物が現れると信じてしまう自分がいた。

 ーー何故なら、この目で怪物を見てしまったからだ。

 魚のような鱗を纏い、触手のような大きな尻尾を生やした怪物ーーーー

 まぁ、実際そんな怪物はどこを探してもいるはずはなく、きっと良く出来た着ぐるみなんだろうなと思っている。

 第一、ガキの頃のあやふやな記憶で、それが病院だったのか病院みたいな所かも現在では危うい。

 それに、そんな怪物に会ってしまっていたら骨一つ残らずに食われているか、その怪物と同じ姿になっているのが世の常だろう。

 だから、誰一人としてこの話をしてはいないし、今後もその話をするつもりもない。

「こんなことばっか考えても、何も変わんねーよな」

 一人になると、走馬灯のような考え事ばかりしてしまう癖に喝(かつ)を入れた俺は志奈の帰りを待った。

 決意をしてから、十分ーーーー

 いや、正確には三十分くらいだろうか。志奈を同じ場所で待ち続けていたが、全く連絡がない。

「あんな大見得を切っておいて、結局迷子かよ」

 口角が緩まざるを得ない状況下であったが、さすがに心配なので、

 俺は左ポケットに入っている携帯電話を手に取り、メールを送ることにした。

「迷子になったら、正直に言ったらどうですか? 下僕より頭の悪い女王様へ」

 なんて、嫌味混じりのメールを送ってみたが返事がない。

 そんな俺の心配をよそに、迷子のアナウンスで以下の名前が呼ばれていた。

「迷子のお知らせをします。那由多浩一(なゆたこういち)さん。
 お連れ様がお待ちです。至急、迷子センターまでお越しください」

 ーーあの馬鹿野郎!! ふざけやがって。

 心の声を押し殺しながらも、志奈が無事なことに、何故かほっとしている自分がいた。

真口 祐輔
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真口 祐輔

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