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「あいつ帰ったかしら」
私は窓から見えるクソ野郎の帰り姿を見て、不覚にも微笑みを浮かべている。
「あたしも焼きが回ったかしらね」
自分の甘ったるい精神に吐き気もしなくなっていることに憤慨することもなく、毎日笑っていられるようになったのも、志奈のおかげだ。
だから、私にとって志奈は掛け替えのない唯一無二の親友であり、その志奈が好意を寄せている男が那由多であり、本来なら“那由多君”なんて可愛く呼ぶべきなのかもしれないがーー吐き気が止まらなくなるので、今度も言うことはないだろう。
「日本刀持ち運べれば良いんだけど」
これから夜の街に繰り出す女子高生の台詞として、この上なく可笑しなことを口にするが、実際外に出て敵に遭遇した場合ーー日本刀を振りかざす時間もなく、体の一部を撃ち抜かれるか、包丁などで刺されて殺られてしまう。
そうなると、やっぱりこのーーサバイバルナイフと愛用の自動式拳銃(オートマチック)だけになる。
「やっぱり、いつもの軽装が一番ってことになるのよね」
私がこれを軽装だと思っていても、全国の女子高生がこれを軽装と呼ぶことは決してないだろう。
なんて考え事していても、深夜になれば紅色のスーツを着込みーー女子高生としての私ではなく、ヤクザの娘であり、自分の夢である“正義の味方”として、夜の街に繰り出さなくていけないのにーー私はそれが怖くて仕方がない。
小刻みに震える両手の震えを抑えながら、自分の頬を両手で強く叩き、喝を入れる。
「あぁ、もう。いつもあたしだったら、笑ってるわよ、本当。今度あいつに会ったら、一言言ってやろうかしら」
そして、私の本音を伝えられるのはいつになるだろうか。
「あぁーあ。一般人には気が重いぜ。なんなんだよ、高校生にブツ渡す程かよ」
あの時は、非日常の流れで拳銃を受け取ってしまったが、実際に銃刀法違反をこの年で起こすことになると思うと、些かどころではなく、大いに後ろめたさを感じてしまう。
周りから見れば、ただハードケースを持っている変哲のない高校生だとは思うのだがーー俺としては他人に見られたくはない物を懐に忍ばせて家路に着かなくてはならないという、イライラ棒をしている心情と同じくらいに神経を使いながら家路に着かなくてはならない。
普段なら、心の友だと言いたくなる警官も、世紀末に出てきそうな悪魔の門番に思えて仕方がない。
ーーまぁ、気持ちは素直に嬉しかったんだけどな。
竜兄が俺ら旅行中に死に、しかもその相手が未だに捕まっていない。
その事実が変わらない以上ーー危険であることに変わりはなく、夜遅くに街中を出歩くことはやめた方がいいのだろう。
ーー志奈には、なんて言って説得しようか……。
そんな心配事が尽きない俺の前をーーサンタではないのかと疑いたくなるような量のランドセルを購入した黒スーツ姿の男が通り過ぎた。