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「おい、俺にヒットマンやれって言うんじゃねーだろうな」
「あんたみたいな素人に頼むくらいなら、あたしがこの手で殺してるわよ」
「だったらーーなんで、こんな物騒なもんを俺に渡すんだよ!」
俺の両手には人を殺せる凶器がある。こんなもんを普通に使いこなす人間の神経を、俺は未だに理解できないでいる。
無論ーー目の前にいる凛花のことなのだが……。
深い徒労感に襲われている俺に対し、凛花は閉ざしていた口を開いた。
「“血が全て抜かれた死体”が見つかってなきゃ、あんたなんかにチャカを渡そうなんて思ってないわよ……」
「おいおい、大袈裟じゃねーのか? どうせ、出血多量で死んだ死体とかで犯人は通り魔ってオチだろ?
それに警察だって動いてるだろうから、夜遅くまで出歩かなきゃ良いだけだろ?」
凛花は志奈のことになると、大袈裟に物事を進めてしまうことが度々ある。
この前だって、志奈に告白した男をストーカーと勘違いし、次の日に生きた抜け殻のようにしてしまったのが記憶に新しい。
少し前まではナンパ成功率八割を誇っていたあの美男子が、今では女が怖くて男子高に編入したと聞いて、俺は彼に同情せずにはいられなかった。
だから、俺が凛花を宥(なだ)め、この物騒な回転式拳銃を返そうとしたら、凛花は口を開くなりーーーー
「そんな、甘い話じゃないのよ!!」
俺を見る凛花の眼は今にも首を刈り取られるであろう兎の眼そのものだった。
「おい、何があったんだよ? お前らしくねーよ」
俺の問いかけに対し、凛花は何か躊躇うような仕草を見せてから、話し始めた。
「バラバラにして殺した相手の血を残らず吸い取るっていうーー奇妙な殺しをうちらの島で平然とやってるのよ。それも、無差別で何の目的も無しにね……。
こんな殺し方ーー普通の人間じゃ到底できないから、きっと犯人は人間じゃない何かよ……」
「何かって、なんだよ」
「分からないから、こっちだって困ってるんじゃない!!」
ーーこいつ、阿保なんじゃないのか。
目の前にいる、得体の知れない何かが出たと言いーー高校生に拳銃を渡すヤクザがどこにいるのだろうか。
もし居るとしたら、目の前にいる凛花ぐらいだろう。
大事な話があるのかと思えば通り魔が出たから気を付けろという、なんてないことだった。
どうせ、夕方のワイドショーで報道される程度の話をする為に、こいつに呼び出されたかと思うとーー自分の時間が無駄な過ごしたと、特徴的な捨て台詞でも吐いて帰ろうとしたが、呼び止められーーーー
「これから毎晩見廻りして犯人を取っ捕まえることになったから、あんたと志奈は夜になったら外を出歩かないこと。
それでも、もし私達が見廻りしていた時に犯人が志奈を襲おうとしたら、あんたがそいつで威嚇射撃をして一緒に逃げるのよ。
最悪あんたが殺しても私達が面倒みるから、そこら辺は安心しなさい」
と、一連の流れを説明された後にーーーー
「全く安心できないんだが」
「うるさいわねー。いいから、黙って持って行きなさいよ!!」
拳銃の入ったハードケースと扱い方の書かれたノートを渡されるなり、背中を蹴られて壁に衝突した。
「おい。来客にこの仕打ちとかーー照れ隠しか、なんかか?」
「勘違いしないでよ!! 日頃の恨みをあんたにぶつけただけなんだから」
「間違いねーな、本当」
俺はヒリヒリと顔に伝わる痛みに耐えながら、家路を急ぐのであった。