……それから数日後のこと。
彼女の名前は、メイドロボットということで『メイ』に決まった。
メイは働きモノで、お袋の仕事がなくなるほど、よく働いてくれる。お袋はかなり満足そうだ。そして親父も、お袋とはまた別の意味で満足そうである。
因みに、あの箱はその後どうなったかと言えば……居間の片隅に立てかけ置いている。庭先へ放り出してやろうと一度はそう決めていたが、やはり可愛そうに思え、そうすることに決めたのだ。
たまに相変わらずの横柄な口調で話しかけてくることがあり、鬱陶しく感じることもしばしばであるが。持ち前の声優バリの美声が、そうした感情を中和してくれる……が、しかし。それが余計にたち悪いとも言える。
『基哉(もとや)、暇だ。この私と、お話をしよう♪』
「……暇なら、テレビでも付けてやろうか? ステファ」
ステンレス製の箱なので、ステハが訛り、いつの間にか《ステファ》という名前が定着していたのだ。
『基哉、このわたしを舐めるな。今の時間帯は、お笑いもバラエティーもない。私はそれ以外、見ない主義なのだ。それを知っての狼藉か?』
「なら、面倒だから。主電源切るっていうのは、どうだ? それで解決するだろ?」
『うあ! ……す、すまぬ……』
実はあれから、ステファの中を調べている内に、《ライラノ社製》型式FMR01-A01・A02型(試作)使用手順書と書かれたマニュアル書が見つかり。そこにはA02型であるらしいステファの使い方まで書かれてあったので、ある程度ならこのオレでも扱える様になっていた。
今もそのマニュアルを片手にステファを横目に見て、脅した訳だ。
可愛そうではあるが、この手のひと言が、コイツには一番利く。
因みに、A01型であるらしいメイは、開発コードネーム《フェアリーメイド試作01号機》とされている。
が、A02型であるステファは、《ステンレス・ケース》とだけ書かれてあった……。どうやらライラノ社内でもステファの扱いは、彼女の姉であるA01型の『ついでもの』で悲惨なものであったらしく。その環境が今のステファのひねくれた性格を成形したと推測できてしまう……。
オレはそのことを思い、深いため息をつく。
「ステファ……」
『な、なんだ。基哉? も、もう多くは望まぬから、許しておくれ! 頼むから電源だけは――!』
「違うよ……ちょっとだけなら、話し相手になってもいいぞ?」
『……』
感情というものはない筈だが、不思議なもので……ステファの笑顔がその時、気のせいかオレには見えた気がした――。
が、間もなくオレは後悔することになる……。
『それでね、それで! その者がまた酷いやつでさー「うるせー! 少しは黙ってろ、箱!」「欠陥AI!」とか言うんだよ! コレって、ひどいと思わない? 差別だよね?? だよね?』
「はは……それは確かにひどいなー……」
ステファは一度話し始めたら、とにかく止まらなかった。あれから既に1時間は経っている。
ちなみに……オレも今、その同じ台詞を吐きたい気分だよ……ハハ。
オレは困り顔でそう思い、そこでまた深いため息をつく。が、何故かそんなステファに対し、いつの間にか愛着が次第に沸き始めている自分を感じ、自然と笑みが溢れてしまうのだから、不思議なものだ。
とても気が利いて、見た目にも美麗なメイ。そして、困った所の多いステファ。この新たな《二人》と過ごすことになる我が家の日常がどうなるのか、オレには未だ検討もつかないが。少なくとも今は、充実感の様なモノを確かに感じている――。
《【第一話】それはある日、突然に》 ―完―
[第一話、総文字数 約9000文字]
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