前半
眺めると、ひとつ前の電車が離れていく。
あと四分。これを逃すとあと十三分。
逃したことはないけど、時計を見る。
階段を上って向こう側、小走りに上り列車のアナウンス。
ホームの端の方まで呼吸を整えながら、時計を見る。
今日は余裕だ。
別に走んなくても良かったじゃん、電車が来る。
知り合いはいない。
会うと何となく気まずいから、ちょっと、安心。
ドアが閉まる。
時計を見る。
七時十七分。
電車はゆっくりと動き出した。
私の時計はどうやら一分早いようだ。
到着。
この駅、あまり降りる人はいない。
私立中学生、声の高い小柄な男子たちが真っ先に駆けていって、改札を出ると、私は彼らとは逆方向に歩き出す。
今日は駅前の車が多い。
天気は曇り。午後から晴れるらしい。
時計を見る。
七時二十七分。
警察署の角を右に、ここ、いつも車が飛び出してくるんだ。
塀とミラーのすれすれを通って、曲がりくねった道に沿って歩く。
右から安全運転の中学生の自転車、いつも止まってくれる。
ちょっぴり礼をして前を通り過ぎる。
薬屋の前の家から小学生が飛び出してくる。
いってらっしゃいと、母親の声。
少し歩いて最初の信号。
歩行者信号もつけて欲しい。晴れの日は見上げると太陽で眩しいんだ。
いつか帽子か日傘を買おう。
ひたすら歩く。
その間、小学生の通学班が二つ。
いつもママさん同士で子供を見送って、喋っている。
あそこの自販機はちょっと買いづらい。
やっと二つ目の信号。
お巡りさんが立っていて、挨拶を交わす。
おはようございます。
ねぇねぇ、今って何時何分、何月何日、地球が何回回った時ー?
後ろの方で、小学生。
地球が何回回った時…
何故か小学生の時、一度は言ったなぁと思い返す。
時計を見る。
七時四十分。
ガソリンスタンド、日陰を作ってくれる大きな木、なかなか渡れない陸橋の交差点、畑。
子供も自転車も、誰もいない静かな直線。
万歩計を見る。二十六歩。
すごい、私ここまで二十六歩できたんだ。
…ちゃんと動いてよ万歩計。
きっと私に問題があるんだろう。
歩き方?つける場所?
少し後ろの方に付け替える。
左手からトラックが出てきて、見送ってからそこを曲がる。
時計を見る。
七時五十四分。
国道に出ると、押しボタン信号が待っている。
私の最大の敵だ。
左右から車がビュンビュン来て、私はボタンを押す。
信号をじっと見つめて。
待つ。
待つ。
待つ。
待つ。まだか。
時計を見る。
八時。
今日はハズレの日だ。二分近くまたされた。
青に切り替わった信号を急いで渡って小道に入る。
やっとこの道で日陰があらわれる。大樹ぶりの日陰。
それでもすぐ、一面畑になる。
そこで見える。学校。
曲がり角の方に向かっていると、別の道から一人のおじいさんが歩いてきた。