──第一晶── 堕ちた榊(さかき)家
小鳥たちの合唱が色とりどりの花と競
い合って、世は春。
ちらほらとほころんだ梅に、花の仄(ほの)かな香りが流れてくる。
「お呼びでしょうか、父上」
ふすまの前に片膝をつき、頭を垂れ返事を待つ少年。汗に濡れたブラウンの短い前髪が、額にぱらりと垂れているのが若々しい。
「燐慟(りんどう)か、入れ」
凛とした父の声に、思わず身体がこわばる。ぎこちない手つきで戸を開ければ、射るような視線が、燐慟を見ていた。
「どうした、緊張しているのか」
「いえ、そのようなことは……」
眉間にくっきりとシワを寄せて、父──榊 木煉(もくれん)が射竦(いすく)めるように、燐慟を見つめる。
「まぁ、いい。鍛練は怠っていないようだな」
「はい」
幼い頃から刀を持たされ、風邪を引こうが、ケガをしようが、泣き喚こうが、稽古を休んだ日は1度たりともなかった。
同年代の男子と比べて、比較的細身な外見からは想像できないが、筋肉の層が積みあがり、ムダな肉は一片もなく痩せすぎず引き締まった身体は、その修練の賜物(たまもの)である。