「ハッタリだよな……?」



今朝の蓮の言葉が思い出される。



『ははっ、そんなにキレるなって。お前の内のノアが穢れるぜ?』



感情の起伏があまりにも激しいと、ノアは穢れ、操者は感情そのものを失う。


振れ幅は人によって異なるが、ある一定の基準値を超えたとき、ノアは暴走すると言われている。


操者の体内を暴れまわり、記憶と感情の総てを一掃し消滅するため、2度と元に戻ることはない。


普通、あの程度の怒りでノアは穢れない。

蓮は、それを判った上で言ったのだろうか。


──謎すぎる


何を思い、考えているのか皆目見当もつかない。


「めんどくせェ………」


と、曇りガラスのドアの向こうに、黒い影が現れる。


「あの、燐慟様」


ためらいがちに、声がかけられる。


「どうした、ユリ」

「その……お身体は大丈夫でしょうか? 封印の儀のとき、大変苦しそうだったので……」

「大丈夫じゃなかったら、学校行ってねェよ。なぁに、大丈夫だ。ありがとうな」


──嘘だ

ノアを封印したからと言って、ノアそのものがなくなった訳ではない。

無理矢理抑えられているノアは、時折、息が詰まるような痛みで、自身の存在を主張してくる。

しかし、ユリはほっとしたように息を吐き出すと、


「よかった……!! もしかしたら、燐慟様が死んじゃうんじゃないかって……あたし、心配で…ッ……」


嗚咽まじりの声が、耳元で聞こえたような気がした。


「あんな辛そうな燐慟様を見るのは、もう耐えられません……」

「ユリ……」

「……すみません、ご入浴の邪魔を……。では、ごゆっくり」


そう言うと、すぐに曇りガラスの影は消え、燐慟の視界を湯気が覆い隠した。

それから軽く身体を洗い、浴場をあとにすると、リビングではすでに料理が並べられていた。

一方的にユリが話をし、その間にも燐慟は黙々と料理を口に運んだ。

隣の部屋が空いているというのに、『同じ部屋がいいです』と、頑なに離れるのを拒んだユリを、簡易ベッドに寝かせ、燐慟はソファーに横たわった。


「時雨…………」


目じりに浮かんだ水滴はソファーに吸い込まれ、跡形もなくなって消えた。

壮佳
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壮佳

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