嵐は過ぎて 1

 この部屋自体が10畳程しかないのに、これだけ激しく動いて壁やベッドに傷一つ付かないのが異常だ。
 いや、全ての攻撃の先がお互いにしか向いていないんだ。他の物に攻撃を放てば、自分の攻撃の速度が少しでも奪われれば、一瞬で殺される。
 なんて今はどうでもいいことばかりが頭を駆け巡った。
 時間が止まったようだ。俺の頭に様々な考えが、恐ろしいスピードで浮かんでは消えていく。
 サクラは俺に背を向けている。バランスを崩したらしく、袈裟斬りに放たれたモモコの斬撃に対応できない。
 サクラの名前を叫んだ俺は、サクラに向かって飛び出していた。
 モモコの斬撃がサクラに襲いかかる。サクラは両腕をだらりと垂らして、その行く末を見守るようにモモコの攻撃を眺めている。その顔に焦りは無く、むしろ悟りを開いたように穏やかだ。
 諦めるな! 間に合え!
 サクラを突き飛ばすか? サクラとモモコの間に割って入るか? 間に合うのか? いや、間に合った所で俺はどうなる?

 ――死

 その一言が俺の頭を支配した。
 くそ、うるさい、構うものか。黙ってろ!
 俺はサクラにすがりつくように手を伸ばす。
 距離にして2m程か。普段ならば大した距離じゃない。しかし今、これはフルマラソンより遥かに遠い2mだ。
 ああ! ダメだ、間に合わない!
 死が、モモコから放たれた死がもうすぐサクラを斬り裂く。
 間に合ってくれ。
 右手一本だけでもいい。
 間に合って――

藤宮ハルカ
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藤宮ハルカ

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